表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
篠木の伝承 豊穣謝祭の願い  作者: ながとみコケオ
4/6

賢治が似たのは

「三年ぶりの再会で、詰め寄る者がおるか」

「職務放棄してここに来た人に、再会も何もないでしょう」

 弥素次、何時になく言葉がきつい。連が、二人の様子を見て、楽しそうな表情をしている。

「安心しろ。俺がいなくとも、政は問題なく行われている」

「どういう意味です?」

 にやりと、不適な笑みを見せた羽音に、弥素次が眉間に皺を寄せた。

「俺の仕事は、三年かけて、全て臣達に押し付けてやった」

 大胆というか、怖いもの知らずというか。呆れて、言葉も出ない。

「押し付けられた臣達に、同情します。で、誰に聞いてどうやってここに来たのかは、連との関係で言わなくても分かりましたから、何をしに来たのです?」

 さすがに、二五年付き合ってるだけある。羽音の言葉を流して、更に聞いている弥素次に、感心してしまった。

「会いに来た、だけでは納得しそうにないな。父上を殺した者が、分かった」

 弥素次の表情が、消えた。鋭い視線で、羽音を見ている。

「それと、お前が追われているのは連から聞いていたから、追っている者達の名簿も持ってきた」

「父上を殺した者と、私を追っている者は同一人物ですね」

 弥素次の言葉に頷いて見せて、羽音は後味の悪そうな表情を浮かべた。

「名簿の中に、入っていてほしくない者の名もある」

 連が、弥素次に持っていた書類を渡す。頁を捲りだした弥素次の横に来て、覗いてみる。

「叔父上、どうして」

 小さく呟いた弥素次の言葉を聞いて、惣一が不思議そうな表情を作った。

「確か、弥素次を逃がしたのって、叔父さんじゃなかったか」

 言葉を聞いて、驚いたのは羽音だ。

「本当か」

 弥素次が、頷いてみせる。

「弥素次、お前を処刑しようとしていたのは、叔父上だ。議事録にも、残っている」

 信じられない、そんな表情を浮かべて弥素次が、反論しようとして止めた。弥素次が言葉を止めるのを見て、育也が疑問に思ったことを聞いてみる。

「ねえ、弥素次。弥素次を追っていたのは、悪心の神じゃなかったの?」

 育也の言葉に頷いて見せた弥素次は、連を見た。

「連、悪心の神は、叔父上に取り憑いたと考えられませんか?」

「だとすれば、事が動き出す前に、普段とる行動と違う行動をしていた筈だ」

 連に言われ、弥素次も羽音も黙り込んでしまう。仕方なく、二人の変わりに、聞けそうなことを聞くことにする。

「例えば、どんな感じ?」

「そうだな、普段では考えられない行動をとったりするような場合は、ほんの一例ではあるが考えられるな。奇怪な行動をとる直前に、切っ掛けになる事があるんだが」

 連の言葉にそういえばと、二人同時に言う。

「父上が殺される一月程前に、叔父上は調査の為に古桜洞≪こおうどう≫に出向いたんだ」

 先に話し出したのは、羽音。

「あの時は、確か、朱膳が率いる一部隊も一緒でしたね。名簿に載っている者達は、一部隊全員が入っています」

 弥素次が続けるが、よく一部隊全員の名前覚えてるなと感心する。

「妙な音や声が聞こえると、近隣の民達から相次いで届け出があったから、原因究明の調査だった筈。音も声も止んだからと何事もなく戻って来ていた」

 羽音も、負けじと自分の記憶を辿っている。

「何事もなかったのではなく、古桜洞で叔父上達に何かあって戻って来た可能性は、否定出来ないですね」

「その後から、時々、見かけぬ行動を目にしている」

 互いの視線を合わせたまま、どちらが何を言うか考えているように見える。

「古桜洞と言えば、霊獣の番人が悪心の神を封じた場所として、文献に記されていました」

 話が、文献に入ってしまった。文献に記されているくらいは知っているが、読んだこともない為、内容までは分からない。この二人の思考は文献を読破しているらしく、話さずとも分かっている為に、育也は既に話についていけず、黙って聞くしか出来なかった。

「封印が解けたとしたら、叔父上が調査で古桜洞に出かけた時期だろう。他の者は、恐れて古桜洞に入ろうとはしない」

「護封が、姿を現したのは、同じ時期だ。悪心の神の封印が解けると同時に、護封は主を探しだすからな」

 羽音の後に言った連の言葉に、ふと思い出す。賢治は白護の主で、産まれたのは三年前。やはり、時期が重なる。

「お前を生かそうとしていた叔父上と、亡き者にしようとした悪心の神。両方が、身体の主導権を争っていた時期が、父上が死に、お前が濡れ衣を着せられた時期だったのかもしれんな」

「早く気付いていれば、父上は殺されずに済んだのに、巻き込んでしまった」

 弥素次の、悪い癖だと思う。終わったことを、何時までも引き摺る。溜息を吐くと、左手で弥素次の背を叩いてやった。

「弥素次、今更言っても、お父さんは返ってこないの。ちゃんと、分かってるでしょ。悔やむよりも、今は今後のこと考えたら」

 目を白黒させている弥素次に、引き摺らないように言ってやると、羽音が突然笑い出した。

「副隊長の言う通りだ。弥素次、良い妻に出会えたな」

 こいつは弥素次の気持ち考えもしないで、勝手に決め付けて言ってる。

「てめえは、話を飛ばし過ぎだ」

「お前の口は、乱暴で粗悪だな」

 言った途端に、羽音に睨まれたが、怯むものかと思う。

「じゃあ、乱暴ついでに言っとくけど、公用で来てねえ奴に言葉改めないからな。絶対国王なんて呼ばないし、名前で呼んでやる。それと、ここにいる以上、使える時は使うから覚悟しとけ」

 知らない、こいつが何をどう言おうと知ったことじゃない。家に厄介になるって自分から言った以上は、使われることも覚悟してもらう。居候するなら、手伝うくらいして貰わないと、家計圧迫するんだ。

 目を丸くしている羽音を見ながら、連と弥素次は必死に笑いを押し殺している。

「育也、大丈夫か。そんなこと言って」

 惣一は驚いて、こちらに聞いているが構うものかと思う。

「羽音、一本取られたな」

 笑いを押し殺したまま、連が声をかけると、羽音は苦笑いを浮かべた。

「聞いてはいたが、こうまではっきり言われるとは、思いもよらなかった。弥素次、お前尻に敷かれそうだな」

 まだ言ってる。睨もうとして、羽音の膝に乗っている賢治と視線が合った。

「賢治が、同じこと何度も繰り返して言うの、羽音に似たんだ」

 睨む代わりに口をついて出た言葉は、羽音を複雑そうな表情にし、賢治を見させていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ