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篠木の伝承 豊穣謝祭の願い  作者: ながとみコケオ
2/6

悪戯は薬屋で

 篠木の町に着き、案内されて薬屋の前に来た。徐に外套を脱ぐと、持って来た荷物と一緒に妻に渡した。

「暫く、持っていてくれ。これで気付かれては、意味がない」

 楽しげな笑みを浮かべて妻が外套を受け取ると、先に店の中へ入ってしまった。

 少し時間を置いてから、自分も入る。微かに薬草の匂いが漂っており、店主が薬草を煎じているのが見えた。

「あれ? 弥素次お帰り。育也はどうした?」

 心の中で、占めたと思う。店主は自分が弥素次ではないと、気付いていないらしい。

 妻の姿は、ない。恐らく、子供の傍だろう。気付かれないように、先手を打っているらしかった。

「はい、用事があるとかで、大通りで別れました。代金は育也が預かっていますから、戻ってからお渡ししますね」

 弥素次の言葉遣いも、仕草も分かっている。真似て気付かれたことは、一度たりともない。

「用事ねえ、詰所にでも行ったかな」

「何処に行くかまでは、聞いておりませんでしたね。済みません」

 弥素次達が戻れば、直ぐに別人だと気付くだろう。気付いた時の店主の顔を想像すると笑いたくなるのだが、今は抑えている。

「いいよ、気にしなくて。それより、棚から頭痛用の薬草取ってくれないかな。手が放せなくて」

 棚の引き出しに、名前が書いてある。薬草の種類は、妻が詳しい為、こちらも見ていて覚えている。頭痛用の薬草の引き出しを開け、薬草を出すと店主に差し出した。

「これですよね」

「悪いね」

 手を止めて、受け取りながら店主が言うと、再び薬草を煎じだす。煎じる様子を、弥素次が帰って来るまでの暇潰しに眺める。古い道具が、長い年数に渡って店主達に使われていると物語っていた。

「俺が薬を作る時は、絶対見るよなあ」

 感心したように呟いている店主だが、手は動いている。

「少しでも、手伝えればと思いまして」

 弥素次の返す答えなんぞ、お見通しだ。興味あるものは、確実に覚えようとする為、店主が煎じている姿を見て覚えているのだろう。この店の手伝いをしていることもあって、返す言葉も自ずと手伝えればが入ってくる。

「育也は見てても、覚えねえしな」

 娘が覚えないのは、護衛隊副隊長だからだ。ある程度の知識は必要でも、薬屋が持っている知識には程遠い。職が違う為、覚える必要がないと判断しているのだろう。

「仕方ありませんよ、育也は護衛隊の職に就いていますから」

 店主が手を止めて、こちらを見た。気付かれるかと一瞬思ったが、苦笑いを浮かべたところを見ると、気付かれてはいないらしい。

「何で、護衛隊の副隊長なんかしてんだろうなあ。危険な職に就く必要なんか、なかったと思うのに」

 店主も、父親だなと思う。自分の娘が、護衛隊に就いているのが心配なのだ。まあ、一時の我慢はしてもらおうと思いつつも、苦笑いを浮かべる。

「でも、育也が何処にいるか把握出来ますから、その点では安心できるかも知れないですね」

 まあね、と短く答えて、店主は再び手を動かす。店主は娘の行方が分からず、ずっと探していたことも聞いている。だからこそ、言えた言葉だ。

 入口から、誰かが入ってくる。視線を向けると、客が一人入って来ていた。

「いらっしゃい」

 店主が言うと、客は不思議そうにこちらを見ながらも、店主へと近づいていく。

「弥素次、さっき育也と歩いてなかったっけ?」

 拙い、弥素次を見かけたのか。内心焦りを覚えつつも、不思議そうな表情を作ってみせる。

「歩いてはおりましたが、育也とは別れて戻りました」

「そう、なんだ」

 怪訝そうに言いながらも、店主に欲しい薬を頼んでいる。何処で見たかは分からないが、気付かずに帰ってもらうよう祈る。

「でも、服装も違うような」

 服にまで言及するなと思いながら、満面の笑みを作って見せた。

「気のせいですよ」

「何だい、今日は随分すっ呆けてんなあ」

 薬を渡しながら店主が言っているが、気付いていないのは店主の方だと、心の中で呟く。

「みたいだなあ。今日は早々に店仕舞いでもして、ゆっくり休むかな」

 正しいのは客の方なのだが、何も言わずに様子を見るに留める。

「そうしな」

 代金を受け取りながら店主が言うと、そうするよと言いながら出て行ってしまった。

「全く、どうしたかね」

 呟きながら店主は、三度止めた手を動かしだした。

「心配ですね」

 心配する必要もないが、言っておく。

「ま、薬も渡したし、大丈夫だろうけど。あんまり酷いようなら、医者にでも行くさ」

 そうですねと言いつつも、心の中で客に謝る。済まぬ、と

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