近づく陰謀
暖かいとは、お世辞にもいえない日差しが、日陰のない道を照らしていた。
杉と柳の国境を越え、柳の最初の町を目指す。
待ち人からの一報では、篠木の町に探し人がいるらしい。三年間待ちわびた瞬間を、やっと迎えられると思うと心が躍る思いなのだが、こんな道一本の、遠くに森があるような野原で浮かれた顔をする気はない。
外套に付けられた頭巾を深く被り、顔を見えないようにする。どうも浮かれた心を抑えられないらしい。つい、口元が笑んでしまう。
篠木に着いたら、教えてもらった店を探して、それからどうしてやろうか。
考えれば、考える程、楽しくて仕方がない。
三年分の心配は、こちらが思い切り楽しむことできっちり返してもらう。
死と隣り合わせで、三年間生きていたことも知っている。こちらも、三年間は生きた心地がしなかったのだから。
青々とした雑草が、作られた道に向けて伸びているが、気にもせずに歩いて行く。
あれは、自分の顔を見たら、何と言うだろうか。久し振りの再開に喜んでくれるだろうか。それとも、三年前も見せていた表情で、呆れるだろうか。どちらでも良い、会えれば良いのだ。
顔を、上げて見る。遠くに小さく映し出された町に、口元は先程よりも笑んでしまう。
店には、居るだろうか。居れば、普通に再開を喜ぶが、居なければどうしてやろう。
歩く速さも、町が見え出した途端に自然と早くなっていく。
国境の手前まで、自分を連れてきた者は、一足先に篠木に行っている。先に行って、様子を見てほしいと頼んだのだ。早く知りたいからと、無理矢理頼んで先に行かせ、自分は歩いて向う。向いながら、色々と遊ぶ手段を考える。何よりも楽しい一時を、会う瞬間を想像しながら頭巾の下で微笑む。ある意味、至福の時。
「気味、悪いぞ。お前」
前方で声をかけられ、足を止める。声をかけた人物に視線を向け、これでもかと云わんばかりの笑みを見せた。
「良いんだ。楽しくて、仕方がないからな」
「そんなに、にやけた顔をされると、一緒に歩きたくなくなる」
空色の瞳が、呆れた色を帯びている。
「そう呆れるな。何せ久し振りだから、どうやってからかってやろうかと思案しているんだ。あれの反応は、嫌という程知っているからな」
性格を知っているからこそ、からかう手段を一手間も二手間もかけたくなる。どうせからかうなら、入念に仕組みたい。
「軽く仕込んではいるんだが、物足りなさ気だな」
長く、しなやかな金の髪が、吹いてきた風にゆっくりと舞う。
「どうせからかうなら、巧妙に仕組むさ。ところで、俺と居る時は髪飾りを付けろと言わなかったか」
止めた足を進ませ、傍まで行くと笑みを見せた口元を見る。
「分かっているが、今は出来ない。すれば、折角仕組んだことが水の泡になる」
成程、仕組んだことに関係してくるから、態としていないのか。分かったと短く答え、話を変えることにする。
「で、様子はどうだった?」
「ああ。配達に出かけている」
配達? あれは、何をしているんだか。訝しげに思った雰囲気が伝わったのか、口元が苦笑いに変わった。
「居候の身だ、居るだけでは申し訳ないと、店を手伝っている。だから、今は娘と二人で配達に出かけた。裏路地は入り組んでいて迷い易いから、娘が道案内と護衛を兼ねて一緒に行っている」
「護衛? 必要あるのか?」
記憶では、自分と互角で、その辺の兵では相手にならない筈だが。
「柳の国王が手配した。弥素次が、篠木に居ると態々教えてやったから、篠木の出身だった護衛隊副隊長に護衛させているんだ」
何か引っ掛かる。店の娘が道案内と護衛をしていて、柳の国王が護衛隊副隊長に護衛させている。聞きようによっては、二人居るようにも聞こえるが、同一人物だと思えば、答えも出てくる。
「護衛隊副隊長は、女か」
「ああ。育也に武術を教えた分、安心して任せられる。私が、推薦した」
愛弟子なら、護衛も任せられるらしい。それと、と頭巾の下からこちらの顔を覗き込む。
「育也は、弥素次に惚れている。先日、育也が肌身離さず持っていた髪飾りが、弥素次の物だと分かったんだ。二人して自分の気持ちに気付かなかったから、育也に自覚させてやった」
娘の方は自覚させたということは、弥素次はまだ気付いていないということになる。髪飾りをしていない理由は、娘が持っている髪飾りにあるらしい。
「つまり、あれに自覚させろということか」
覗きこんでいる顔が、満面の笑みに変わる。
「面白いことに、なっているだろう。取り分を残しといたんだ、感謝しろ」
「感謝している。子は、どうした?」
満面の笑みに答えるように、笑みを返してから子供のことを聞く。
「店に居る。口止めもしておいたが、子供の考えることだ。直ぐに、言ってしまうかもしれない」
子供の顔を思い浮かべながら、直ぐに話してしまうところは誰に似たのだろうかと思う。自分も妻も考えて話す為か、思い当たる節がない。
「その時に、考えよう。さて、そろそろ行こうか」
すっと、顔を引くと踵を返して歩き出す。横に並び、町へ向けて歩き出した。




