忘年会
「あいつは帰ったか?」
「いつも通りの定時上がりですよ」
旅館名が刻まれた送迎バスに乗り込む一行。送迎バスが走りだすと一同は背もたれにもたれる。
「せっかくの忘年会なのに、あいつがいると空気が悪くなる…」
「だから皆であいつに気付かれないように忘年会を企画したんじゃないですか」
幹事が立ち上がり、参加者に告げる。
「この忘年会は皆が気持ちよく過ごせるように『かの方』にはお休みして頂きました。意味は分かりますね」
送迎バスの中で笑いが沸き起こる。
「『かの方』には自主退職してもらって、社内の雰囲気向上に貢献してほしい所ですが、現状では難しい。なので、せめて忘年会では清らかな酸素を吸いましょう」
幹事が車内の拍手に対して手を振って応えた瞬間だった。送迎バスの側面に強い衝撃が走った。送迎バスは横転し道路に叩き付けられた。
次の日、この事故は大々的に報じられた。事故に巻き込まれた従業員は年末年始を病院で過ごすこととなった。
ギブスで固定されている男が『かの方』にすがるように頼み込む。
「いやぁ、君が無事で本当に良かった。明日から仕事初めだ。取引先に今の状況を説明して…」
『かの方』は黙って退職願を出した。
 




