自殺志願者
「自殺をまだ考えているのですか!」
俺を説得しようと男は独りよがりな正義を振りかざし続ける。自殺場所を探すために樹海を彷徨っていた先で、俺はこの男と出会った。男は開口一番、“自殺なんて馬鹿なことをするつもりじゃないでしょうね!”と怒鳴ってきた。それからこの調子だ。
「なぜ自殺しようとしているのですか?不治の病とか」
「俺は健康だ!借金で首が回らなくなったんだ!」
「心の支え、例えば、家族がいれば乗り越えられるはず!」
「俺は天涯孤独だ!悲しむ奴なんていない!」
事故死した親が残した借金。日々膨らんでいく借金が返せないと悟った時、俺はこの世界から消える決心をした。しかし、その前に目の前の男を黙らせたい。
「偽善者野郎!お前の正義は自殺志願者に依存しているってことに気付かないのか!」
男は俺の言葉を受け入れるように頷く。
「その通りです。私は自殺志願者に依存しています…正義ではなく【生活】がですが…」
突然、頭部に衝撃が走った。俺の意識は真っ暗になった。
男は携帯で報告する。
「はい。健康体の成人男性です。身内がいないので捜索届が出されるのもだいぶ先になりそうです。ドナーと適合することをお祈りしております」




