I'm in Metallic Cage
※初投稿です。文章が拙いです。
これは、友人の一言に着想を得て書いたものです(本人から執筆許可は頂いています)。
「問題ない」という方は、どうぞ拙作をお楽しみください。
ピピピピ…… ピピピピ……
電子音。
『羽田様、起床のお時間です』
合成音。
けたたましく………は無くとも、快眠に水を差されるのは良い気分ではない。二度寝でも、と思うが、このまま鳴り続けるのも鬱陶しい。
「………………ん」
身を起こす。
白を基調とした───否、ほぼ白一色に統一された調度が、意図もなく近未来を醸し出している。
午前六時三十分。合成音が報せる。
『本日は朝食後、身体検査を受けて頂きます。既に御用意しておりますので、お早めにお召し上がりください』
「………本日も、だろうに」
独り愚痴るその声は、届かない。
籠っていても仕方がないので、部屋を出る。
やはり、白。
リビングの、そのテーブルの上に置かれた、出来たてであろうそれは、何とも食欲を唆るような存在感を滲ませる。
「………頂きます」
顔が在るかも分からない某への微かな感謝と共に、料理を口へ運ぶ。
やはり、うまい。
軽過ぎず、重過ぎず。朝にどれだけ、どのような物が欲しいのかを、きっちり理解している。
見た目と味、双方に於いて、何処かのレストランに出されていても可笑しくない出来栄えだ。
故に、だろうか。
──────冷たい。そう、思ってしまうのは。
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身体検査、着替え、出発───一連の習慣をこなし、学校へと歩を進める。『普段通り』という言葉が違和感なく当てはまる日常だ。
交通量は少なく、閑散とした通りを歩くのは、現在ただ一人。
………そういえば、今日が入学式だったか。
今朝、聞いたことを確認していると、僅かながらに耳に入る機械音。
先の曲がり角から聴こえるその音は、周期的なリズムを刻みながら、徐々に大きくなっていく。
カシュ、カシュ、ガシュッ。
続けて視界に入ってきたのは、自らと同じ制服を着た男。
180センチは下らないだろうか。その体格は、遠目からでも分かる程度にはがっちりしている。
一見して、相当量の鍛錬を積んでいることが伺える。
機械音の音源が男の足元でなく、更にその首に、赤とも、黒とも取れる、鈍く光る鋼板が見え隠れしていなければ、の話だが。
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───機甲人間。
人間の肉体と、鋼鉄の鎧。二つをその身に併せ持つ者。幾百、幾千もの歳月に渡る、進化を是としなかった人類が考え出した、一種の進化形。
本来の身体と比較しても遜色のない精密性・感応性。本来の肉体を遥かに凌駕する身体能力。
従来の人類に在った限界を大幅に拡張し得た、叡智の結晶だ。
かつて、人間は『死』を畏れ、『老』を怖れた。
技術・産業の進展と自然環境の保全。双方を絶妙なバランスを保ちながら推し進めていた。
筈だった。
発展の遅さに辟易し、業を煮やした者達がより一層の革新を求めんと現れるのは、想像に難くない。
案の定、彼らの強行策は環境を軽視したものになり、努力も虚しく自然は崩壊の一途を辿っていく。
結果として、文明は発達したものの、産業廃棄物の杜撰な管理による外部への流出に加え、今まで認知されなかった有害物質が『都市公害』として猛威を振るうようになる。
自然は、その修復が極めて困難となるまでに侵され、その影響は何時しか、惑星規模にまで広がっていき、人類は存亡の危機に見舞われた。
その時、ヒトは自然の復活でなく、自らの環境への適応を選択する。無論、後者が安易であるからだ。
奇しくも、発展した科学技術は、高度な人工知能や、自動人形などを生み出していた。それらの技術を流用し、人工臓器・外骨格の開発に着手。
ついには、脳と機械を直接的に接続することで、人間の肉体と比較した時の駆動時間差を極限までゼロに近づけた義肢、及び全身機装の完成まで漕ぎ着けた。
こうして、機甲人間は誕生した。
更に技術は進歩し、人体に悪影響を及ぼすことのない新合金の考案、感覚・運動器官や骨格を機械に置換し、神経器官を残しておくことによって、然も自らの身体を動かすかのように義肢を動かすといった、先進技術の実用化が進められた。
未だに、肉体の置換は、以降の成長を捨て去ることと同義であるという課題が残り、また、生命に対する侮辱ではないか、との倫理的懸念の声もあるが、政府が主体となって推奨・援助したことも相まって、今やほぼ全ての人間が機甲人間となっている。
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「………まあ、関係ない話だけど」
この身は機械に置き換えていない。完全に生身の人間だ。
金属アレルギー。
現状、全ての機甲は特殊な合金で造られ、それに含まれる金属に対して、皮膚に軽くない炎症を起こしてしまう。体内に埋め込めば、どうなるかは明らかだ。
かと言って、炭素や珪素、燐などを用いたものでは、合金製の機甲に比べ、どうしても性能が大きく落ちてしまう。
よって、生身で生活せざるを得ないのだ。
メンテナンス要らず、というメリットはあるが。
何時の間にか、眼前に、旧き良き建造物校舎が見えていた。
手袋をはめた右手で携帯を見る。
『08:11』の文字。普段通りだ。
この御時世、自動車や電車の類はめっきり使われなくなった。何処へ行くにも、自分の足を使う。
近所なら歩き、遠ければ空を飛ぶのだ。
見上げると、似たような影が十数個。飛んで通学する者も多いらしい。
辺りからは、囲まれたように聞こえる機械音。
消音機構を組み込んであっても、完全には消えないか。
特注の補聴器を両の耳に付けながら、そんなことを考える。
寄り道をせず、そのまま、この土地で最大の建造物───大講堂へ向かう。
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二千二百を収容可能とする講堂は、既にその半分以上をヒトで埋めていた。もう新たな友を作ってしまったのか、談笑に興じる者も多い。
生憎と、此処───私立桜門館学園高等部に新しく籍を置いた知り合いは居ない。仕方なく、まとまって空いていた席の、その端に座る。
「隣、良いかな?」
ふと、問いかける声。
「………ええ、構いません」
応える意思に、「じゃあ、失礼」と。
「僕は、近藤 義久。君は?」
「………羽田。羽田 司です」
「羽田君、だね。宜しく。僕のことは、適当に『近藤』とでも呼んでくれて良い。それと、タメで大丈夫だよ」
「では、近藤、と。此方こそ宜しく」
………皆さんは、この学園で───
高校では最初の、そして、友人となるであろう話し相手に意識が向いたからか、もう入学式は始まっていたようだ。
学園長を見ながらも、彼の言葉を軽く聞き流す。
「しかし、待ちに待った高校生活。わくわくするねえ」
「………まあ。強ち、間違ってはいないかな」
発した言に、隣の彼は首を傾げた。
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「えー、この度!」
快活な声が、教室に響く。
「この1年B組の担任になりました、乙原 鈴奈です!採用2年目で、クラスを持つのは初めてだけど、精一杯頑張ります!宜しく、みんな!」
パチパチパチパチ………
若干、言わずとも良い情報が混じった気もするが、一先ず拍手をする。
「取り敢えず、みんなのことをもっと知りたいから、自己紹介でもしよっか!」
じゃあ明石さんから、と言う乙原教諭。
「はーいっ!」
またも、明朗な一声。
「明石 花菜、5月18生まれ!中身だけ置き換えてます!葡萄とチョコが好きかな。早く皆と友達になりたいです!宜しくお願いします!」
パチパチパチパチ………
まるでアイドルみたいな紹介だ、と思うのも致し方のないことだろう。
それにしても、やっぱり機甲人間か、明石さんも。
同じクラスに配属された、彼───近藤は、頭部以外の全てを置換していた。
まあ、分かり切っていたことだ。
「次はー、羽田君、お願い!」
「はい」
そっと腰を上げる。
皆の視線が、一点に集まる。
さあ、始めようか。
「羽田 司です。魚は大体好きです。訳あって機械には置き換えていません」
脆弱な人間の、挑戦を。
「目標は、鋼鉄の身体を手に入れて思い上がった、天狗の鼻を叩き折ってやることです。宜しくお願いします」
今のところ、続きを書く予定はありません。
が、失敬ながら、気が向けば「短編」といった形で続きを書くかも知れません。
これからも(機会が訪れるかは不明ですが)よろしくお願いします。