練習試合の誘い
隣町のチーム・シゲミアンと練習試合をする事になった。チーム・シゲミアンを率いるリーダー茂宮市蔵は高校時代にサッカー全国大会の代表チームだったと噂されている。それ以外にはあまりいい噂をきかない男だから、申し込みが先方からあった時には受けるべきか否かをかなり迷ったが、奇縁組の紅一点である山田さんが受けましょうと言ったのが鶴の一声となった。まぁ、われわれ奇縁組としても向こうのコートを無料で貸してもらえる上に試合相手にもなってくれるということで、ありがたい話である。と、思っていた頃が私にもありました。
塗装したてのクラブカーで隣町までいく。チーム・シゲミアンの根城は隣町の公民館だった。公民館というとショボそうに聞こえるかもしれない。しかし、われわれのような限界の田舎者にとって公民館とは地域で唯一と言っていい役場以外の公的機関であり、また地民からすいあげた税金を町役人たちはこの公民館につぎ込み、ひとつの目玉事業として仕上げたので、公民館といってもその佇まいは相当立派なものだ。外観は国会議事堂を三分の一スケールでミニチュアにした感じだろうか。入り口には警備員が威圧するように立っており、車の中で神経の細い八代なんかは「なんだよ、あの警備員〜」と情けない声で漏らして、山田さんに呆れられていた。
「あなた方は、町民ではありませんね?どのようなご用件でしょうか」
通用門を通せんぼした警備員が慇懃な調子で話しかけてくる。腰に警棒を光らせて、なんとも嫌な感じのする若造だったが、私はチームを代表して受け答えた。
「いえ、われわれはフットサルの練習試合をしにきた、隣町のチーム奇縁組というものです。チーム・シゲミアンの茂宮市蔵さんにここに来るようと申しつかいましたので、やってきました」
すると警備員の目の色が変わった。しゃがみ込んで、品定めをするようにわれわれのクラブカー、塗装したての奇縁3号の車内をのぞきこむ。それからニヤニヤと笑みを浮かべこういった。「なるほど、あなたがたがチーム奇縁組の皆さんでしたか。私はチーム・シゲミアンのメンバー、四ノ宮町蔵です。今日はいい試合が出来るように期待していますよ」
まさか警備員がフットサルチームだったとは。私は車を駐車しながら、茂宮市蔵と四ノ宮町蔵という二つの名前を区別して覚えることには苦労しそうだな、と考えた。八代は「へん、あんなもやしみたいな警官が相手なら余裕だぜ」と震える声で言った。横から小池が「警官ではなく警備員だ」と冷静に訂正した。
公民館の中に入ると、すぐさま事務員がやってきて私たちの前に立ちはだかり、愛想笑を浮かべてこういった。
「奇縁組の方々ですn、お待ちしておりました。チーム・シゲミアンの応接室はこちらでございます」
案内されたのは、なんと公民館の館長室だった。
田舎の公民館には似合わない、過度に豪華な内装をほどこされた館長室に、その男はいた。
プレジデント・チェアに肘をかけて鷹揚に座り、葉巻をくゆらせながら吐き出した煙越しに私たちをじっと見つめている。
「ようこそ、フットサルチーム・シゲミアンの聖域へ。私がこの公民館の館長にしてチームの総帥、茂宮だ」
そういいはなつと、茂宮は威嚇するような表情をパッとゆるめた。