少女回顧録
ふわり、薄い靄のような微睡みが体を包んでいた。
閉じていた目をゆっくりと開けて、あぁ、これは夢なんだと思う。
かっちりとした深い紺色のブレザーに、同じ色でプリーツの極端に少ないスカート。
胸元で揺れるとは見慣れた赤いタイ、ではなく、臙脂と紺色のネクタイだ。
その制服には見覚えがある。
両親が通っていた高校のもので、母が先日突然引っ張り出して着ていたものだ。
それを何故、私が着ているのかは分からないが、妙にフィットする感覚に眉を寄せた。
夢の中でそんな制服を着て、何をすればいいのか。
ゆらり、視線をさ迷わせれば霧が掛かっていたような視界は晴れ、見慣れない風景が広がっていた。
夢ならあったことや、見慣れた景色の方が多いのに、珍しいこともある。
「いないねぇ……」
「携帯って携帯するから携帯だろ」
「携帯してても出なきゃ意味無いのよね」
ぼんやりしていると目の前から見覚えのある影が三つ並んで、こちらに歩いて来ていた。
目が痛いくらいの真っ赤な髪が揺れて、隣では尋常じゃないスピードで携帯を弄る指先に、更に隣では眼鏡の奥の瞳がゆらりゆらりとさ迷っている。
二人の女の子と一人の男の子。
目立つ赤い長い髪に緩やかな笑みを浮かべ、肩出しニットを着た女の子には見覚えがある。
片目を隠して携帯に指を滑らせている、黒いタートルネックを着た男の子にも見覚えがあった。
眼鏡を掛けていて溜息を吐く、カッターシャツにカーディガンの女の子にも見覚えがある。
見覚えのあるはずなのに、どこか幼さの残る三つの顔を眺めて、冷や汗が背筋を流れた。
髪の長さも体付きも違う。
身に付けているのは制服ではなく私服で、それぞれが誰かを探している。
探しているのが誰かなんて分かり切っていて、触れた頬の感触は鈍い。
ひたりひたり、自分自身の存在を確かめるために触れるが、薄い膜に覆われているように感覚が鈍く、頬を抓ってみても痛みは感じなかった。
あぁ、夢だ、夢だ。
目の前にいる三人の姿も、どこかの写真で見たから、そんな風に現れるだけだ。
目覚めろと願ってみても、目の前の景色が霞むことも、意識が浮上することもない。
頬に置いていた手を下ろし、短く息を吐いた時、指先にぶつかる硬い何か。
ブレザーのポケットに、何か入っている。
指先で引っ張り出して見下ろしたそれは、青いケースに収められた生徒手帳。
身分証明書には、真っ直ぐにこちらを見るお人形のような顔があった。




