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café terrasse

Blue Star  ~ まこの物語 ~

作者:

「隆志・・・一緒に行く?」


ついこの間、香織から結婚の報告がきた。

黙っておくのもどうかと思い、隆志にも尋ねてみた。


「・・・その日、仕事入ってるし、今更、俺が顔出すのもおかしいだろ」

「だよね。うん、じゃ私、二次会だけ顔出すからさ」

「あぁ。帰り迎えに行くわ」



迎えに来てくれるというその言葉・・・たったそれだけでも嬉しい。

あの日からずっと、結婚した今になっても不安が消えない。

いつか私のもとから隆志が去ってしまう気がして・・・。




香織とは同じ会社で、一年先輩の私は香織のことを妹みたいに思ってた。

兄と弟の間で育った私にとって、香織のことは妹のように可愛くって仕方なかった。

会社のお局様たちは、おっちょこちょいで泣き虫な香織に辛く当たってたけど

私はいつも香織の見方だった。なんだか放っとけなくって。

屋上でいつも泣いてた香織に声を掛けて渇を入れてた。

しっかりしなさいって。


実家を出てきて一人暮らしがしたかったという香織に彼氏を紹介した。

せっかくの一人暮らしなんだし、彼氏ぐらい作りなって。

その時私が付き合ってた人の友達でルックスも抜群な人がいて

二人を会わせたら、たちまち彼の方が一目惚れしてしまった。

会った日の夜にはもう、彼の方から付き合って欲しいと連絡が来たと香織が言ってきた。

私の彼の友達なら一緒に遊びにも行けるし、香織の方もとりあえず付き合ってみようかなって。

最初はあまりピンときてなかったみたいだけど、私も試しに付き合ってみたら?って軽いノリで交際を薦めた。



しばらくは仲も良かったみたいだし、彼の部屋の合鍵までもらったって言ってたから

上手く言ってるとばかり思ってたのに・・・



「まこちゃん・・・私、好きな人できた。どうしよう・・・」

「はっ?嘘でしょ?あんたいつの間に・・・・・」

「帰りにね、駅の前でね、送ってあげようかって言われて・・・雨降ってて傘持って無かったからつい乗っちゃったんだけど・・・それから毎日駅で待ってて・・・・・」

「ついって・・・香織、簡単に知らない人の車なんか乗っちゃだめじゃん!」

「ごめんなさい」


そう言ってまた泣くから、もう怒れなくて。

事情を聞けば、ここ最近毎日その人に送って帰ってもらってるらしい。

車通勤の私が香織に送るよって言っても電車の定期がもったいないとかなんとか言って絶対私に送らせたりしない。そういうところもいい子だなって思ってたのに。


「彼氏はどうすんの?」

「・・・・・別れたい。どうしたらいいかな」


どうやら付き合いだしたのはいいけど無口な彼にちょっと違うなって思ってたとか。

今はそのナンパ男が好きだという。どうしてもその人がいいって。

仕方なく私の彼から香織の彼氏にありのままに伝えてもらった。

それから色々ごたごたあって・・・本当に大変だったなぁ。


結局、そのナンパ男の隆志と香織は付き合いだした。

でも会ってみるとこれがなかなか男気のある人で、香織が好きになった理由もわかる気がした。



香織は私に何でも相談してたから、二人のことは全部知ってる。

喧嘩した時は泣きながら電話してくるから、私が隆志に電話して仲直りさせたこともしばしばで、仲のいい二人の姿も嫌というほど見てきた。


そう・・・嫌になるぐらいに。


いつの間にか香織にかこつけて、理由を作りあげて隆志に電話するようになった。

くだらない愚痴や世間話も隆志は何も言わないで聞いてくれて、

元々あまりしゃべる人じゃないからただ聞いてるだけだろうけど

それでもそんな隆志のことを、私はどんどん好きになっていった。

彼氏とも上手くいくはずもなく、気がついたら他の女に寝盗られてた。



それからの私はほんとにどうかしてた。

香織のことは本当に大好きだったけど、でも隆志への想いがどうしても止められなくって、どうしようもなくって、毎日苦しくって、こんなに好きなのに、隆志の口から出るのは香織のことばかり。

我慢できなくなった私は香織の目を盗んで隆志に会いに行った。

堪えきれず想いを伝えたけど、やっぱり思ったとおりの反応だった。

私はその時に、せめて友達として傍にいることを選んだ。



あの日、香織が隆志と別れて奥さんのいる人を選んだと聞いたとき


本当にあの子が憎かった。


隆志に愛されてるのは香織なのに、私じゃないのに、私の気持ちにも気が付いてて、私がまだ隆志を好きなら付き合えって言った。

なんて身勝手なんだろうって思った。絶対許さないって思った。

隆志は強そうにみえて本当はすごく寂しがり屋で

私はそんな彼につけこんだ。



香織のこと責められるような人間じゃない。

でも謝ることもできない。

隆志が用意してたお花も、発信履歴の残った携帯電話も、処分してしまったのは私の罪。


償いのつもりで毎年、あの子の誕生日にブルースターを持って行った。

香織の顔を見るのが怖くてあの子がいない時にそっと置いて帰った。

あの子は星の形をしたこの青い花が大好きだと言ってた。

隆志もそれを覚えてたんだなって・・・ずいぶん妬けたっけ。








香織に見送られて二次会のお店を出て隆志を待ってたらすぐに車が目の前に止まった。


「ごめんね。疲れてるのに・・・」

「いや。別にいい」


元々口数が少ないからこんな感じだけど、今日は特に遠く感じる。


「・・・・・・香織ね、幸せそうだったよ」

「そっか。良かったじゃん」

「うん。お花、ブーケにしてもらって渡してきたから」

「ふーん」


夫婦の会話なんて、どこもこんなもんなんだろうか。

でも一応まだ新婚なわけだし、子供だっていない。

なのにこれじゃまるで老夫婦みたいじゃん。

もっと色々話したりとかするんじゃないのかなってそんなことばかり考える。

でも今日のことを話題にするのはさすがに勇気が必要で、いつもは一人で勝手に喋り捲ってる私らしくもない。


「ねぇ、晩御飯まだでしょ?何か食べてこーよ」

「いいけど・・・何がいいんだ?」

「隆志が決めてよ。食べたいものない?」


何にも答えることなく黙って運転してる隆志に、どこに行くの?って尋ねたら内緒って言われた。


で、着いた場所は、私が前からずっと行きたいって言ってたパスタのお店だった。

隆志ってば、いつも聞いてるかどうかわからなかったから諦めてたのに。


「ここだろ?まこが来たかったのって・・・って、え?何で泣くんだ?違うのか?」

「うぅん、違わない。ここに隆志と来たかったから、嬉しくって・・・」

「泣くことないだろ・・・ったく 明日雨だな。現場あるのにさ」

「ひどっ・・・」

「ほら、飯食うんだろうが、入るぞ。みっともないから顔拭け」


車を降りる前に隆志がティッシュで顔を拭いてくれた。

お化粧取れたしって言ったら、誰に見せるつもりだよって笑ってた。

久しぶりの二人の外食はとても楽しくって

隆志は相変わらず無口だけど、でも私はそれでいい。



そんな彼を愛してるから。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  あらすじのように語られた、現在までの経緯において。  登場人物(女性キャラ)の気持ちの移り変わりが、とてもリアルだと感じました。揺れ動く感情というか、微妙に理屈ではないというか、そんなと…
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