対策
生徒たちは続々登校してきている。その中に要注意人物二名の姿はない。朝の会まではまだ時間がある。
俺は走り出した。リストによれば、綺堂の家は北摘寺町という地区だ。六角の家は東摘寺。そして間藤高校は南摘寺にある。
つまり、北からくる綺堂と東から来る六角、その道が交差する。
角でぶつかって……なんて事になったら、全部ぶち壊しだ。
くそっ! これじゃ昨日なんで綺堂を気絶させたかわからん!
つまりTVゲームでよくある一つのイベントを回避したが、イベントが分岐するパターン!
初対面だからこそ、朝ぶつかって、後で転入生が紹介され、二人して『あーっ! 朝の』「おい何だお前ら知り合いか。それなら千本北大路は綺堂の隣の席がいいか」なんてことになってしまう!
そのシチュエーションになるには、遅刻寸前という必須条件がある。
時間はまだ少しある。どこか一箇所の角ならば、先回りできるはずだ。
いや、それより綺堂を封じたほうが確実か!
俺は全力で北摘寺に向かう。とにかく走る。昨日の今日で足は筋肉痛で、あと腰も痛いが、走るしかない。
俺も実家が北摘寺だ。遅刻しそうになって通る近道は大体わかっている。
その途中に先回りするのだ!
そうやって走っていると、ついに奴を発見した。前から全力で走ってくる影、間違いない。綺堂だ。あまり姿は見られたくない。辺りを見渡すと、右は路地で左はドブ川だったので、慌てて路地の方に隠れた。
そして、綺堂が前を通過する、そのタイミングで飛び出した。
飛び出す、というよりもはやタックルだった。
「わあっ!?」
綺堂は吹っ飛び、ドブ川に落ちた。
一方俺は、見られないように素早く路地へ戻る。
すまん。許せ少年。君には平穏な日常の方がいい。これは君が危険な道に行かないようにと、君を思っての事なのだ。
……嘘だが。
とにかく、これで綺堂が六角とぶつかる事はない。早く学校に戻らないと、折角苦労して用務員になったのにクビになってしまう。
何か走ってばっかだ。




