成功?
壁のふちに右手を伸ばし、掴む。素早く左手も木から離し、ふちを掴む。あ、けっこう厚みあるや。
「ていっ」
もう何年もやったことのない懸垂。それでも力を振り絞ってふちに上半身を乗せる。
あと少しだ。
と、その時、いくつもの小さな光の珠が背後に流れていった。どうやら光を集めているようだ。
多分記憶を消す技か何か出そうとしてるんだろう。
「くそっ! 間に合えっ!」
一気に壁を乗り越え、向こう側にダイバー2010!
間に合ったか!?
「って……うわああああああっ!?」
壁を飛び越したら、そりゃ10メートル下に落ちるわな。
落ちたら死ぬ。
目の前にはビルの壁。必死でどこか掴もうと手を伸ばす。
掴めた!
窓の上枠を掴めた……って、この落下速度と体重一瞬で支えられるほど腕力ねーよ!
手は振り解け、だがそれによって軌道が変わり、窓に突っ込む。
幸い窓は開いていたためガラスにダイブしてアクションスターみたいになる事はなかった。もとい、怪我しないで済んだ。
いきなり窓から飛び込んできた男(俺)に対し、カウンターに座る女性が目をぱちくりさせている。
で、設置されてるチラシ(ブラック歓迎完壁融資。……っていうか「かんかべ」って何だよ)とかから察するに……
ここは消費者金融だったようだ。
それもやばいタイプの。
「コラァ! てめぇ何モンだ!」
パンチパーマでサングラスの男が奥から飛び出して来た。んもう! 何で駅前一等地に限ってこういうのばっか入ってんだよ!
「あっ、警察!」
「んあっ?」
俺は咄嗟に入り口を指差しでまかせを言ったのだが、男はあっさりとひっかかり、その方向を向く。
その隙に入ってきた窓から宇宙刑事ばりのダイブ。
飛び出したのはいいけど、ここ何階だ? たしか二階ぐら……
「うわあああああああああ……」
やっぱ結構高い! 地面が近づくー……
「……痛てっ!」
こ、腰が……。
二階ぶんの高さは流石にきつい。足から落ちたのに腰に来た。いや足も痛いけど。
上を見上げてみると、さっきのパンチパーマの男が窓から身を乗り出してこっちを見ている。
激怒しているかと思ったが、そうでもないらしい。
呆然としているようだ。
ん? まぁよく考えりゃそうか。俺だって窓から飛び込んできた奴がまた 窓から飛び出して行ったら、多分あんな顔するわ。
それよりも、だ。
周りのほうだ問題は。
すっごい見られてる。
駅前だし、人が多い。そのたくさんの人たちが俺を凝視している。落ちているのを見られてたらしい。
「あっオダギリジョー!」
また同じ手を使い、そっちを注目させ、俺はその場を逃げ出した。




