脱出
とりあえず隠れたまま移動して……オーロラの壁に張り付いて……怪物がやられたら壁がなくなるだろうから……いや、それより先に記憶が消される? じゃないと記憶をもったままで逃げる人も出るだろうし……怪物が倒されても壁が消えるまで若干時間がかかるってことか。
幸い、と言っていいかわからないが、少女はまだ怪物と戦っている。
どうにかして逃げないと……。
と、その前に。
さっき吹っ飛ばした少年のところへ行く。ドロップキックがいい所に入っていたらしく、気を失っていた。ごめん……。
だがこれはいいぞ。少年が起きなければ少女を目撃してないし、他の人は忘れさせられるだろうから夢だとでも思って、転校してこようが絡みはなしだ。
「う、うう~ん……」
少年の口から声が漏れる。
いかん。起きそうだ。今起きられては困る。
「せいっ!」
「ぐわっ!?」
目覚めようとしていた少年のみぞおちに一撃を入れた。
少年は泡を吹いて倒れた。
度々すまん。許せ。
これでしばらくは目覚めないだろう。
ちらりと少女の方を見てみる。まだ戦っているが、怪物はあちこち切られて息も絶え絶え。こりゃあと少しで決着がついてしまうぞ。
どうにか、どうにか逃げられないか? 少女は後から来たんだ。絶対に出れないってことはないだろう。
待てよ……そもそも少女はどうやってここに入ってきた?
……空だ!
確かに空まで覆ってたオーロラをぶち破って少女は飛び込んで来たんだ。空からなら出れるんじゃないか?
ただオーロラの壁は高さが10メートル以上。流石に飛び越えるとかは無理だ。
辺りを見渡す。何か高い所……。駅舎の一部がオーロラにめり込むようにあるが……。
駄目だ。二階に新幹線用のホームがある分高さは足りてるが、肝心の階段部分はオーロラの向こうだ。
何かないのか何か! ぶんぶん首を振って辺りを見渡す。
「あ!」
でかい木があった! 壁の側で壁と高さが大体同じ。これならあの木から飛び移って逃げられるかもしれん。迷ってる暇はない。
とにかく登らねば。
周りの目、特に少女に見つからないように注意しつつ、物陰から移動し、木に向かう。
そして少女から見えない裏側から一気に登る。靴だと登りづらいので靴下ごと脱ぎ捨てる。
木の表皮がぼろぼろと剥がれて登りにくいがそこは根性だ。とにかく必死に登る。
だんだん、幹が細くなってくる。
落ち着け……折れたら終わりだぞ……。
掴む枝も慎重に選びながら、上へ上へと登る。ここまで登ってくれば、オーロラの壁のふちに手がかかりそうだ。
でもふち掴んで手がスパッといったらどうしよう?
「ギャオオオオオオオオーン!」
いかん! 多分あの声、怪物がやられた声だ!
ええい! ままよ!




