記憶
ガシャアンと音がして、続いてわけのわからん呪文が天から振ってくる。わけわからんなりにそれっぽく変換してみた。
それはさておき、呪文の声は明らかに少女のもの。という事はつまり……
――来たかっ!
声からわずかに遅れて少女が降ってきた。
風圧で逆立つ長い黒髪のその少女は日本刀と思しき刃物を構え、そのまま怪物の真上に落ちる。
それは同時に怪物に刀が突き立った事を意味していた。
「ギャオオオン!」
怪物が絶叫した。暴れて少女を振り落とそうとするが、少女は刀を掴み、耐える。
「うるさい」
少女が冷たく言い放つ。今の多分、活字に直したら五月のハエって書いてうるさいって読むタイプのやつだな。きっと。
とすると、最近食傷気味のツンデレかもしれねぇな。
などと考えていると、少女は怪物から飛び降り、距離を取る。そして、そのままこちらを振り返り……
「そこの貴様、何を呆けている。さっさとどけ。邪魔だ」
この喋り方、キツイだけじゃなく古風だ。
よかった。助かったって事は、とりあえず俺は化け物の強さを示すために、始めに殺される通行人Aとかじゃなかったわけだ。
勝った! 俺は人生という名のギャンブルに勝った最強のギャンブラーや~。
……とはいえ巻き込まれて死んだら意味がないから、起き上がって素早く物陰に隠れた。
そこから少女をよく見てみる。
整った顔立ち。なかでも最も特徴的なのは鋭い目つき。
それより更に特徴的なのが長い黒髪。後ろで結んであり、いわゆるポニーテールなんだが、とにかく長い。下手したら立ったままでも地面につくんじゃないか?
服はセーラー服。真新しい感じがする。おろしたてだろう。
この制服は知っている。
俺の卒業した私立間藤高校の制服だ。
ちょっと待て……さっきの少年の制服、あれも間藤高校のやつだぞ!
そういうことか……。
転校生だな。
これが第一話だとするなら、おそらく明日とかにあの少女が間藤高校に転校してきて、それであの少年とばったり、とそんな感じだろう。
そして本来ならあの少年が子どもを助けて、襲われて少女に助けられて……
いかん!
少女があの少年に興味を持つとしたら、記憶を消したはずなのに覚えてたからパターンの可能性が高い! 有名どこだとシャナとかな。
とするとこのままだと俺も記憶を消されてしまうかもしれん。というか100パーそうだ。
どうする……?




