おもい
お行きなさい……か。
そう言った雪ヶ原の顔には、どこかほっとしたような表情が浮かんでいた。
巫女……ね。こいつもまだ高校生なんだよな……。
……ん? ちょっと待て。もしかして……
「……お前、押し付けたな?」
「!」
漫画だったら絶対「ぎょっ」って書き文字出てる顔でこっちを見る蛍子。
「……さて、何のことやら……」
何てベタなリアクションだ……! 昭和の香りすらするぞ……!
「押し付けられた使命、それも世界を左右するようなとんでもなく重い使命。がんじがらめでロクに自由もない生活。にもかかわらず色々な勢力に狙われ、怯えながら暮らさなければいけない。ところが、そこに変な男が現れた。どうやらどの組織にも属していないようだし、悪意を持っているようでもない……」
俺はいつの間にかそっぽを向いていた蛍子に話し続ける。聞こえてないフリをしているが、肩はぷるぷる震えている。
「これはちょうどいい。こいつに押し付けちゃえば、普通の女子高生になれる。ラッキー。これでバラ色の高校ライフ。やっほ~、とかな」
「何で完璧に当てるのよ!」
振り返り、絶叫する蛍子。
「ん、まぁ勘だ」
「ああ、そうよ! もう嫌なの! なんで私がこんなモノ守らなくちゃいけないの? もっと強い人とかいるのに! かと言って軽々しく渡せるようなモノでもないし! 『悪用することなく、どの組織、権力にも属さぬ者』なんてそんなしょっちゅう見つかるわけじゃないし! 悪い?」
「サンキュな。助けてくれて」
「え?」
きょとんとする蛍子。
「礼を言ってなかったなと思ってな」
「……恨んで……ないの?」
俺の表情をうかがうように首をすくめて顔を見てくる。
「何でだ?」
「その……押し付けて……」
「俺に必要なものだからな。悪いわきゃないさ」
とにかくこれで、六角を助けに行ける。
あ、そうか。俺、もう途中から主人公とかどうでもよくなってたんだな。
どっか危なっかしい、あいつを助けたいだけなんだ。それも一つのキャラパターンかもしれない。だが重要なのはそういうことじゃない。
俺がどうしたいかだ。
「それじゃ……」
「ちょっと待った」
去ろうとする雪ヶ原を引き止める。
「……え?」
「あんた六角と同じクラスだよな? ひとつ頼みがあるんだが」
「頼み?」
きょとんとする雪ヶ原。
「ああ。俺が助かった事は誰にも、特に六角には言わないで欲しい」
「? 構わないけど……何で?」
「そりゃ、言わぬが花ってやつだな」
「そういうものなの? それじゃあ、私はこの辺で……」
言って、ふっ、と消える。瞬間移動は鍵の力ってわけじゃなさそうだな。
まぁ、よかんべ。
俺が死んだ事にしたのにはわけがある。ツィレードは、「海の」ツィレードと言っていた。勝虎級は四人。陸海空とあと一つ何かだろう。魔とか時とかそんな感じの。
四天王で地水火風じゃない場合、その四人目は異常なまでに突出している事が多い。他の三人が敗れた後「あんなザコどもと一緒にしないで欲しいな」とか言う系の。少なくともツィレードが最低ラインになるわけだ。
はっきり言ってケタが違う。もう主人公うんぬんの話じゃない。下手すれば六角は死ぬ。
やっぱり綺堂の放力は必要だ。意地をはって六角の命が失われるようなことがあっていいわきゃねぇ。
だから、六角は綺堂と組ませる必要がある。悔しいがそれには俺は邪魔なんだ。死んだ事にして一度舞台から降りたほうがいい。
あいつらには本来のストーリーラインを今から取り戻させる。あいつらは二人でピンチを乗り切り、コンビネーションの精度を上げていかなきゃならん。
それに鍵はどう考えても、本来まだ出るべきアイテムじゃない。
終盤にキーアイテムとして出てくるべきものだ。おそらく名前からしてコピー能力だけじゃない。魔王とかラスボスが封印されてる扉を、その封印術すらコピーして解く事が出来るとか最重要なアイテムだろう。
今これをちらつかせると、通常のストーリーなら各個撃破されるべき敵の幹部級を集結させてしまいかねない。
そうなったらどう考えても勝ち目なんてない。
ツィレード一体でも冗談みたいに強いんだからな。
つまり鍵なしに敵戦力を削っていくには、綺堂の放力しかないわけだ。
――かと言って、ここで全てを諦めるつもりもないぜ。
あとでピンチの時に現れて、おいしいとこ全部奪ってやる。
そう、主役を喰ってやるのだ。
……ま、助けたいってのもあるけどな。
「……よし! 行くぜ!」




