理解
気がつくと、俺は波打ち際に倒れていた。
どのくらい気を失っていたんだ!? 六角は、六角は無事なのか!?
辺りを見渡すと、いた! 六角は磯に倒れていた。
「六角! 大丈夫か!」
体はあちこち悲鳴をあげているが、構わず走り寄る。
六角を抱き起こす。意識は……無い?
「おい! しっかりしろ! 六角!」
必死で呼びかけながら揺する。
「う、うう……ん……けほっ、けほっ……」
すると、六角はうめきながら水を吐いた。
「……ツ……ツィレードは……どこだ……?」
こんな時までそんな事を……。いや、六角の言うとおりか。縛鎖空間も解けてない。
奴はどこに……?
その姿を探そうとして、ある違和感を覚えた。海水が、足元まで来ている。
ここは、磯だったはずだ。こんなに水はなかった。
考えている間にもどんどん海水は渦を巻き、水かさを増していく。
……違う。水かさが増してるんじゃない。俺が沈んでるんだこの渦に。
慌てて六角を抱き上げた、その時、目の前に突然ツィレードの姿が現れた。
『これはボルテクスアビス。はまればニ度と抜け出せん』
「は、放せ……このままじゃお前も……」
六角が言うが、もう遅い。俺は腰まで渦に捉えられてしまっている。もう下半身はぴくりとも動かせない。
『少々追い詰めれば、潜在能力を開放するかとも思ったが……所詮この程度か……。深海の藻屑となるがいい』
ツィレードはそう言い残し、消えた。
「貴様っ、待てっ!」
六角の叫びが空しく響く。
「……くそっ、こんなところで……死ぬのか……」
「……お前、体は動くか?」
「……すまん……まだ、力が入らない……」
「やっぱ、そうだよな……」
理解した。
俺は主人公にはなれない。




