臨海学校
かもめがきゃぱきゃぱと鳴き、寄せては返す波がさーさー音を立てる。
太陽さんさん。臨海学校の二泊三日、ずっと晴れだそうだ。
シレン衆の襲撃がないまま、一ヶ月。七月も後半になり暑さ爆発。
とまぁ、そんな事はどうでもいい。
重要なのはこの高校にはその臨海学校という、小学校みたいなシステムがあるという事だ。対象は二年生。要は六角や綺堂たちってコトだな。
海といえば水着……とかそういう問題じゃねえ。俺がいないのに、綺堂はそこにいるというのが問題なんだ。
そこで、休みを臨海学校に合わせて取り、追跡するのだ。ストーカー言うな。
んで、臨海学校の時が来たわけだ。
俺はその間、海の家のアルバイトを入れている。主な仕事は、カゴに商品入れて売り歩く、「おせんにキャラメル、ジュースはいかがっすか~」ってやつだな。
そういうわけで、麦わら帽子で顔を隠しつつ、六角を探しながら、浜辺をうろうろしていたのだった。こういうイベント中に限って、敵も襲って来るもんだからな。とりあえず、六角見つけて側にいとかにゃならん。
どこだ? どこにいる? 人が多すぎてわからん。
綺堂と鈴菜たちがスイカ割り――というか耕太が埋められてスイカ代わりにされている――をしているが、そこに六角の姿はない。
意外だな。あいつらと一緒にいるもんだと思ってたんだが……。
いや、もしかしたら本来は一緒にスイカ割りをしていたかもしれない。俺が割り込んだことで、あの三人と六角の交流が弱まった展開になっているのかも……。
特に鈴菜は気さくそうだから、六角とも無理やり仲良くなりそうなものだが……。
そう考えると、すごく悪いことをしている気がする……。タイムマシンを悪用して未来を改変した時空犯罪者の気分だ。
……悩んでもしょうがない。
賽は投げられたのだ。ここまで来たらあとは最後までやり通すだけだ。
あれ?
ちょっと眼を離した隙に、綺堂の姿がない。
あの三人があそこにいて、綺堂と六角がいないってことはまさか二人で――
ん? あれは……綺堂だな? なんか日傘差した少女といるぞ? 六角かな? 日傘の角度的にここからじゃ顔がわからん。
そろりと近づいてみると……違う。六角じゃない。
真っ白な、雪のような髪をした眼鏡っ子――俺は知っている。生徒リストでもひと際その髪色が目に付いたからだ。六角たちと同じクラスの……確か、雪ヶ原蛍子。体が弱いらしいから、それで海に入らないで綺堂と談笑してるんだろう。
キャラ的に明らかに秘密がありそうだが、とりあえずは放置しておこう。
でも、意味ありげなキャラと綺堂がしゃべってるってことは、それはちょっとしたイベントなわけだから、スイカ割りから抜けてても不思議じゃない。
さて、じゃあ六角はどこだ?
あ、六角いた。磯の岩の上で、木刀で波を切り払ってる。
何やってんだあいつは。昔の格闘漫画か。なんちゅうアナクロな修行してんだおい。
この臨海学校、かなり適当で、今日は夕方までずっと自由時間らしいが、ってことは夕方までずっとそうしてるつもりだろうか。
まぁいい。近寄ってみよう。そろ~りそろ~り……
「何奴!」
六角が素早く振り返り、木刀を首筋に突きつけてきた。数ミリでもずれてたら俺の喉はどえらいことになっていただろう。冗談みたいに正確な剣さばきだ。
「お、おせんにキャラメル、ジュースはいかがっすかぁ……」
「あ、お前は! 何でこんなところに居るのだ!」
あ、ヤバ。俺がここにいる嘘理由考えてなかった。このままじゃ良くてストーカー、悪くてスパイ扱いされるかも知れん。ええと……
「あ、その、例の予知だ。近いうちに敵がまた来るみたいでな……」
「何っ!? 本当か!?」
嘘です。
とは口が裂けても言えん。咄嗟についたデマカセだが、こんなイベント中に敵が出てこないなんてのは、まぁないだろう。
「誰が来るのだ!」
「あ、あの~それは……」
六角が鬼のような形相で詰め寄ってくる。
まずい。どうしよう。
『私だ。討練師』




