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無理やり主人公  作者: がっかり亭
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なりたいもの

 と、そこで六角と目が合った。

「……あ、」

 六角は何か言いかけて、しかし踵を返して走り去った。

 背を向ける前に見えたその表情は、どこかすまなさそうな、自分を恥じているように見えた。涙も浮かんでいたかもしれない。

 どうしたんだ?

 何が……

 とにかく追いかけないと……!

 六角の足は速すぎて、もう視界から消えてしまった。校舎の奥の方に走って行ったのはわかってるけど、どこに向かったのかはわからない。

 どこだ?

 どこへ?

 考えろ、俺。えーと、こういう場合、ヒロインキャラはどこへ行く?

 例えば、思い出の場所――しかし、六角はこの町にいた時のことは小さかったので覚えていないと言った。とすれば思い出の場所はないに等しい。遊園地はいくら六角の足でも行ける距離じゃないし……。

 いや、ちょっと待て。

 遊園地の観覧車で、六角は昔のことを思い出すために風景を見ようとしていた。

 なら、今回も風景の見えるところにいるんじゃないか?

 この近くで一番風景がよく見えるところ……

 ってこの近くというか、この校舎の屋上じゃん!

 よし、屋上へGO!

 廊下を走り抜け、階段を駆け上る。

 そして一気に屋上へ。

 屋上のドアを開けると、あれ? いない?

 いや、この中でももっとも高い場所、貯水タンクの上!

 六角はいた。

 膝を抱え、うずくまりながら、景色を眺めている。もう夜になっているから、町の明かりでも見ているんだろう。

 俺が屋上に入ってきたことには気づいているんだろうか? その辺はよくわからない。とにかく六角のもとへ向かう。

 はしごを昇ってタンクの上へ。それから六角の横に立つ。

 流石にここまで来れば気付かないわけはない。もしかしたらまた逃げていくかとも思ったが、六角はちらりとこちらを見て、顔を伏せただけだった。

「どうしたんだ六角……」

「止めろ……私に近づくな……」

 顔を伏せたまま、消え入りそうな声で言う。

 何て声をかけたらいいかわからず困っていると、六角が口を開いた。

「……見ただろう、お前も……。私の、無様な姿を……」

「……」

「ただ負けたんじゃない……私は……私はお前が来るのを待っていた。助けてもらうことを待っていたんだ! ……情けない……っ」

 本当に悔しそうに言った。

「……私は……今までも一人で戦ってきたんだ……っ。それが……それが今ではお前に頼り切って……」

「頼れよ」

「ダメだっ! そんなことをしたら……私が……私が私でなくなる!」

 六角は頭を振って拒絶する。

 戦士としての自分は、六角を支える柱だ。それがいま揺らいでいる。

 ザンバスターの分身との戦いは、戦士としての自分を取り戻し、勝つことが出来たんだろう。だが、俺を見て、俺を頼った事を思い出し、逃げだしたんだ。

 おそらく俺は、六角にとってはじめての仲間――

 きっと、どうしていいのかわからないんだ。

 こいつは、仲間に頼るってことも知らない。

 それが弱さだと思っている。

 いや、そう思わなければ一人で戦い続けることはできなかっただろう。

「六角……」

「お前が……」

 六角は涙の浮かんだ目で俺を見上げ、

「お前が悪いんだ。私を……弱くした! 一人では戦えなくしたんだ!」

 絶叫した。

 もういてもたってもいられなかった。

 俺は六角を抱きしめた。

「!? なっ……」

「一人で戦わなくったっていいんだよ」

「……う、うわぁあああああああ、ああああああ!」

 六角は泣きじゃくった。まるで子どものように。

「私は……私はっ……」

「わかってる」

 俺が言うと、六角は更に泣いた。

 しばらく泣いて、そして泣き疲れて眠ってしまった。

 こうして見ると本当にまだ子どもだ。

 少年少女が戦うのは漫画、アニメ、ゲーム、ラノベ、どれでもよくあるお約束以上の、もはや真理に近いもんだ。

 だが、この六角の姿を見ていると、年端もいかない少女を戦わせる討練師組織に怒りが湧いてきた。

 夜の闇の中なら生徒に見られることもない。俺は眠った六角を背負って家に帰った。

 そしてそのままベッドに寝かせた。

 

 翌朝、もしや六角は出ていきやしないかと心配していたが、普通に、それも俺より早く起きていた。だから今度は料理作ってたりして、とか思ったがそれはなかった。

 そして姿を見つけると、妙に畏まった表情で近づいてきた。

「……昨日は、すまなかった。もう、二度とあんな姿は見せないと誓う」

「いや、そりゃ別に……」

「いいんだ。私だってわかっている。……それでも、今はそういうことにしておいてくれ」

 六角はそう言って、ぎこちなく笑った。

「……よし、じゃあ朝飯を作ろう。何が食べたい?」

「カ、カレー!」

 無理に元気を出そうとして言ったのが丸わかりだったので、何か無性におかしかった。カレーというのも単に思いついただけで、本当に食べたいかどうかはあやしい。

「それこないだも食ったろう」

「う、いや、その、食べたいんだ。また食べたいんだ!」

 慌てて取り繕うとする六角は、もっとおかしかった。

 そうして俺が笑っていたので、六角はむすっとしていたが、そのうちにいつもの調子を取り戻したようで、瞳にも凛とした輝きが帰ってきた。

 それにしても、六角はやっぱり年相応の少女だ。

 心には危うさ、脆さをいつも抱えている。独りで戦い続けてたら、いつか壊れてしまう。

 誰かが支えなきゃ駄目だ。

 俺が――その誰かになれたらいいな、と思った。

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