封
これは何としてもあいつより先に子どもを助けねば!
「うおおおおおおおおおおおっ!」
全身全霊を込めて走る。間違いなくこれまでの人生の中でもっとも凄い力で走っている。
何とか少年より速く子どもを救出できそうだ。怪物はこちらに気付いた様子もなく子どもにどんどん近づく。だが、多少余裕はある。
これなら絶対に間に合う。
なぜなら怪物の速度は「主人公たる少年が子どもをぎりぎり救出できる」速度のはずだからだ。つまり俺が少年より速く走れば、必ず間に合うのだ。
「よおおしっ!」
怪物の前を、子どもをキャッチして駆け抜ける! 奪ってやったぜ! 主人公最初の見せ場の王道、子どもの救出をな!
そのまま真っ直ぐ走り続けているから当然反対側から来る少年とぶつかりそうになる。
「そいやー!」
そのままの勢いで少年にドロップキック。
「ぎゃっ!?」
少年は吹っ飛んでいった。
「危ないから来るな!」
と、それっぽいセリフを言っておくが、もちろん建前。
少年には申し訳ないが退場してもらう。許せ少年。これも俺が主人公になるためだ。
子どもを適当な所で放して、再び怪物の方に向かう。
息はあがっているので、ゆっくり呼吸を落ち着けながら歩いていく。
「グルルルル……!」
相手はどうやら飯にありつけないでご立腹のご様子。
「少しはダイエットしろ。わけわからん体型をしやがって。くびれ出せくびれ」
いい感じのセリフじゃない? 洋画とかの主人公っぽくない? 違う?
「ギャオオオオー!」
多分言葉は伝わってないだろうが、こっちに襲い掛かってくる。
さっきの全力疾走で足がパンパンだが、走り出す。
「こっちだこっち……」
って……
「うおわっ!?」
視界が反転する!?
舗装の隙間につま先が引っかかって転んじまった。
「ギャシャー!」
これ幸いにと怪物が大口開けて迫ってくる。
さぁ、人生最大の賭けだ。
来い。というか来てくれ。頼む。
「シャー!」
もちろんてめえじゃねぇぞ。
俺が待ってるのは……
「胎動せし大地、連続なる世界の揺らぎ、砕け散る凍て蕾――切り裂け! 中窪霊戮錬刀!」




