覚悟
駄目だ。思いつかん。
考えろ……何か手はあるはずだ。
『ええい! もうかまわん! 貴様らを倒して勝虎も倒す!』
半ばヤケクソ気味にザンバスターが叫んだ。
「いいだろう。来やがれ」
策は浮かばなかったが、とにかく六角からあいつを引き離すために俺は校舎の方へ走り出した。
『あ、お前待て……く』
ザンバスターは走り出す俺を追いかけようとして――
六角の方を見た。
くそっ、忘れてなかったか!
「おい何してるんだのろま!」
『う……ぐ』
ザンバスターは俺と六角を交互に見て……
『そうだ! この手があった!』
と叫んだ。
そして、空手の型のように腰だめの態勢で両手をぐるりと回す。
何だ? 何かの技か?
と思ってたら、左手の人差し指を立てそれを右手でつかみ、さらに右手の人差し指を立て……。
まさか……このポーズは……!?
『無敵流拳法――分身の術!』
忍法だろそれ!
分身の術の名の通り、ザンバスターの体が焦点をずらしたようにぶれ、二つに分かれた。正確には、二人に増えた。
寸分の狂いもなく増えやがった。
こんなのありかよオイ。
『ヒャッホウ! 両方まとめて戦っちまえばいいだけじゃねぇか!』
二人は同時に喋り、声がハモった。
そして、片方は俺に、もう片方は六角に向かっていく。
くそっ!
どうする……?
……いや!
分身系の技は二つに分類できる。
一つは、実体はひとつだけで他は偽物パターン。もう一つが全部実体パターン。
今回は明らかに後者だ。
ここで重要なのは、前者は本体がそのままなので当然実力もそのままだが、後者は分けただけ実力が等分されるということだ。
つまり、ザンバスターの力も二分の一になっている可能性が高い。
それなら今の六角でも何とかなるかもしれん!
おそらくは五分五分。なら六角に賭ける。
とすれば問題は……
『待ちやがれ!』
俺を追いかけてくるこいつってこった。
俺は間違いなく一般人だからな。二分の一の力の奴だろうが、勝ち目はゼロだ。
とにかく、校舎に入れば……!
ザンバスターは追いかけてくるが、だいぶ離れていたため、何とか裏口から校舎へは入れた。
校舎に入ると、廊下に設置された消火器を手に取る。
そして俺を追って来たザンバスターに向かって
「そいやー!」
思いっきりぶちまけた。
『うおっ!? くそっ、ふざけた真似を!』
ザンバスターは白煙のような消火剤をまともに受け、たじろいだ。
単純な手だが、かわす方法もない。結構有効だ。
よし、この隙に逃げ……
って、奥の方はオーロラの壁で遮られてる。なら階段には行けないから、入口付近にあいつがいる以上逃げるのは無理だな。
とりあえず近くの教室に飛び込んだ。
もう授業が終わってだいぶ経ってるし、明日はたまたま実力テストだったから部活もないし、生徒の姿はない。教員はまだ校内にいるだろうが、職員室は縛鎖空間の外だ。要するに俺しかいないってことだ。
まず、掃除用のロッカーに上着を押し込み、そのドアを閉める際、ちょっと端をはみ出させる。ちょうど誰かが隠れてるみたいにな。
ふふふっ。単純極まりない手だが、引っ掛かるものなんだよ。
……。
手が震える。
ロッカーから服の端が出てたら、敵は得意満面にそこに隠れてると思って開ける――学校で敵に追跡された時のお約束だとわかっていても、やっぱり怖い。
結局、俺は自分だけ安全圏から見ていただけなのか?
……違う。
例えそうだったとしても、もう違う。
「ふぅ……」
深呼吸をして、心を落ち着ける。
震えも止まって来た。
……行ける。




