凡人
背中に電流が走ったような気がした。
そこまで、信頼してくれるようになっていたのか……!
だが、肝心の俺は……未だ何も思いつかないときてる!
くそっ! だが思いつかんのならここで考えててもしかたねぇ!
とにかく、あいつの気を逸らすくらいはやらないと六角が殺される!俺は飛び出した。
「待てっ!」
叫んだ。
そのセリフはピンチの時に颯爽と現れるヒーローのそれと同じだった。
俺が待ち望んでいたことでもあったはずだ。
だけど、どこかひっかかった。
俺は、こんな風になりたかったのか……?
いや!
今はそれどころじゃない。
六角が、涙の浮かんだ目でこちらを見ている。
だが、そちらの方には行かず、ザンバスターへ笑顔を向ける。
俺には何の策もない。
だからハッタリをかまして時間をかせぐしかない。
精一杯の作り笑顔だが、通じるかどうか。
「シレン衆倍雀級「記憶」のザンバスターだな?」
木の陰から聞いた情報をそのまま喋る。
俺が隠れてたことに向こうが気付いていなかったのなら、ハッタリとして有効のはすだ。
『お前は……バルフレアやラーゲルトが倒された時その場に居た……』
居た、から先が続かない。
『……お前は何だ?』
ザンバスターが言う。俺の正体がわからないようだ。
そりゃそうだ。俺には背後関係など一切ない。
たとえ調べたところで一般人という結果しか出やしない。@調べた奴は何もわからないから、余計に背後に何かあるかと思って疑心暗鬼にかられるだろう。
こいつが調べたかどうかはわからないが、調べていてくれたらハッタリにひっかかりやすくなる。俺に謎を感じれば感じるほど、興味を持つことになるからだ。
まぁ、バトルバカのこいつがそんな面倒なこと調べているとは考えにくいから、神経を研ぎ澄ませてハッタリをかますしかない。
二つ名が「記憶」となっているが、心を読めるわけじゃなさそうだ。@もし読めるんなら俺は終わりだが……そんな強力な能力なら倍雀級じゃないだろう。
残留思念を読めるってことだから、そこから記憶を読み取れるのは間違いないが、おそらくは現時点ではそれだけの能力だろう。現時点でと言ったのは、残留思念から技の使い方とかも記憶して取り込めるようになるとか、戦闘中に残留思念を分析して先読み攻撃とか、そのうちもっと強くなるパターンが考えられるからだ。
って、とりあえずはそんなことよりハッタリにはめる作業に集中せねば。
「ザンバスター、お前は戦闘が何より好きで、朽狗級を倒した相手と戦いたくて、勝虎級に禁じられていたにも関わらず今日現れたな?」
喋りながら考えているが、うまい具合に頭が回ってきた。こいつが襲撃を禁じられてるか、確証こそないが、朽狗級がやられた以上下っ端が六角に手を出すことは現在禁じられているとして不思議はない。
『……何で知ってやがる?』
知ってるんじゃない。想像したんだ。
だが、そんなことはザンバスターが知るわけがない。
ただでさえ単純なバトルバカだ。目を白黒させて俺を見ている。
「俺は何でも知ってるぜ? お前、本当は十二聖剣と……いや、朽狗や級勝虎級と戦いたいんだろう?」
十二聖剣の情報はほとんど知らないからその辺はあまり触れない。
何にせよ朽狗や勝虎と戦いたいと密かに願ってたことを暴露されることが衝撃だろうから、それどころではないだろう。
『な……!? てめぇ何でそれを……さっきのはいざ知らず、それは誰も知らねぇはず……』
その場で考えたことを発言しただけだが、事実だったようで、かなり混乱している。汗をだらだら流して、何とも分かりやすい動揺だ。
もう、六角のことは忘れてやがる。
この隙に回復してくれたらありがたいが……。
この機を逃す手はねぇ。
「お前、腰抜けだな。六角のこと馬鹿にできねぇぜ」
『なんだと……!』
ザンバスターの額に血管が浮く。それも漫画みたいに三角形に浮かんでたりする。
「だってそうだろう? 朽狗や勝虎が怖いんだ。本当に戦いたいのはこいつじゃないが、逆らえないから代わりにこいつを狙ったんだ」
『うぐ……』
「六角に手を出すことは禁じられていたが、その命令を破ったのは、倒せばおとがめなしだと思っただけだ。本気で逆らう度胸があるわけじゃない。だから腰抜けと言っている」
『く……』
言いたい放題の俺に、ザンバスターは全く反論できない。
かなり効いてるぜ。
ぶっちゃけた話「逆らえないから代わりに」って言った段階では、命令に逆らってここに来たことを忘れてて、言ってから気づいたんで慌てて取り繕ったんだが、単純な野郎で助かった。
『くそう……口ばっか達者な野郎だぜ……!』
「で、どうするんだ? 六角と戦いたいのか? 俺と戦いたいのか? それとも勝虎と戦いたいのか? はっきりしろよ」
『う、う……』
完全にこちらのペースだ。
一方、六角は……だいぶ回復してきたみたいだな。肩で息をしていたのが、呼吸が整っている。とはいえ、傷は数分で治るようなものでもなし、ダメージが抜け切れているわけじゃない。
さて、問題はここからだ。
ザンバスターは単純な奴だから、そろそろ頭がオーバーヒートして理屈関係なく、俺らに襲い掛かってくるだろう。
そうなった際の対抗手段は――




