厄介
「私を呼び出したということは、無論正体がわかっているということだな」
『さっきも言っただろう? 俺は「記憶」のザンバスターだ。あんたに倒されたバルフレアやラーゲルトなんかの残留思念の断片を読み取ってあんたを見つけたわけだ』
「ならば、貴様がシレン衆に伝える前に斬るだけだ」
六角はザンバスターに突きつけていた刀を構えなおし、斬りかかる態勢をとった。
『伝える……? 冗談じゃない。こんな獲物を他の奴に渡してたまるかよ!』
ザンバスターは叫びながら笑った。そう、叫びながら、表情は笑っていたんだ。欲しかったおもちゃを与えられた子どもみたいに。
『朽狗級を二人も倒すような相手と戦える機会なんて滅多にない。さぁ、殺しあおうぜぇっ!』
ザンバスターは六角に突進した。
「望むところだっ!」
六角は刀を振り下ろし迎撃する。
ぎぃん、と金属同士がぶつかる音がした。
ザンバスターは拳に手甲を装備していた。それで刀の一撃を受け止めたのだ。
中窪霊戮錬刀の一撃を止めるわけだから、ただの手甲じゃあないだろう。
六角は刀を切り返し、今度は突きを放った。
それをザンバスターは上体を反らし、かわす。ちょっとイナバウアーっぽい。マニアックに言うとスーパーファミコンソフト『ウルトラマン』のスぺシウム光線をかわすジャミラっぽい。って我ながらマニアックすぎるな……。
とかそんなことを考えているうちに、二人の戦いは熾烈さを増していた。
六角が刀で斬りかかり、ザンバスターがそれを受け止め、拳を放つ。
ザンバスターは徒手空拳のようだな。
攻撃も、パンチとキックくらいしかない。
しかし、そのパンチとキックがとんでもないスピードで放たれている。ほとんどマシンガンみたいな状態だ。ぶっちゃけた話、俺にはほとんど見えん。
その拳と蹴りの乱れ打ちを、六角も刀で弾き、しのぐ。
超人的なバトル。刀と拳の衝突で衝撃波が生まれ、周りの木々の葉が次々と舞い散る。
『ヒャッハー! いいぜぇ! なかなかやるじゃねぇか!』
ザンバスターは明らかに戦いを楽しんでいた。
……ん?
そうか!
こいつは少年マンガによくいる、バトルバカだ!
戦うのが何より大好きなタイプのキャラで、何かというと主人公たちに戦いを挑んでくる。
特徴的なのは、使い捨てのキャラではないことが多いってことだ。
どういうことかと言うと、バトルバカは、バトルが何より好きなので、組織の命令も平気で無視して、勝手に主人公たちと戦おうとする。
んで、主人公たちに負けたら、ひたすら主人公たちを追い回すようになる。その時点では、もはや組織を離反したたりする。
そして、主人公たちがピンチになると現われて「そいつは俺のエモノだ!」とか言って主人公たちを助けるようになる。ちなみに助けたら「勘違いするな。お前を殺すのは俺だ」みたいなことを言う。
最終的にはいつの間にか仲間になっている、というのがこのバトルバカの王道だ。
それをこのザンバスターに当てはめて考えてみると……
まず、こいつはシレン衆の命令を無視して戦いに現れた。
これはこいつのセリフと、あとクレジオンの「偵察だけの命令だった」というセリフから考えても間違いないだろう。
朽狗級が二人も倒されたんだから、倍雀級に勝手に動くなという命令が出ててもおかしかない。まぁ残留思念の解析に送られたのかもしれないが、戦闘の命令は下ってないはずだ。
それから重要なのが、こいつは負けたらのちのち仲間になるキャラなわけだ。
ということは、ここでトドメをさすわけにはいかないということで。
うーん、面倒だぞ。
倒すけど、殺さない。
このさじ加減。
どうしたもんかな~。下手に六角に加勢して完膚無きまでに勝っちゃったら、こいつは間違いなく殺される。六角の戦いの動機はおそらく復讐だろうから、容赦ないだろう。
かと言って、わざとザンバスターを逃がすようなマネをすれば疑われる。今まで苦労して築いてきたもんが、一瞬にしてパーだ。
いや、これホントかなり難しい。




