束の間
最後は、観覧車に乗った。プラネタリウム観覧車とは言うものの、外観や内装に星座の絵が描かれている程度だ。
外はまだ明るい。ここはテーマパークだから郊外にあるわけだが、その分障害物なく遠くまで見渡せる。小さく見える昼間の町は、夜景のように美しいとは言えないが、これはこれで味がある。
六角も、じっと窓の外を見ている。
「あれは繰撫市か?」
眼下に見える町を指差し、聞いてくる。
「ん? 県越えてるから見えないぞ。まぁ方向としてはあっちだな」
俺が指差すと、今度はそちらをじっと見る。
「どうした? 何かあるのか?」
「いや……ただ、繰撫市は私の生まれた所だからな……ちょっと気になっただけだ」
窓の外を見ながら、呟くように言う六角。
「そうなのか?」
「3、4歳から各地を転々とするようになったから、ほとんど覚えていないがな……。だからこそ、高いところから見れば、何か思い出すかと思ったが……まぁ、私らしくなかったな……」
六角が自嘲めいた笑みを浮かべ、振り返る。
「しばらくは繰撫市に居るんだろう? 何か思い出すかもしれないぞ」
「ああ……そうかもしれないな……」
帰りの車。
六角は助手席ですやすやと寝息を立てている。はじめての事づくしで疲れたのだろう。
「……こいつもたまには楽しんだってバチは当たらなねぇだろ」
六角の寝顔を横目で見て、呟く。
戦士だろうが何だろうが、年相応の楽しみはあってしかるべきだ、と俺は思うよ。
「……まぁ、ちょっと強引に連れて来ちまったが、実際こいつは楽しかったのかね……」
「……さて、どうだろうな」
「……へ?」
眠っていると思っていた六角から返事があった。完全に不意打ちだ。
「お前寝たフリしてたのか」
「さて、どうだろうな」
眼をつむったまま、六角がからかうように繰り返す。その声に、怒りの色はない。
あるのはむしろ……
「こんなのはこれきりだからな……私は戦士だ」
「でも、悪くはなかっただろう?」
今度は六角は答えなかった。
しかし、笑っているようにも、見えた。




