ベタ
「うおあああああああああああああああああああっ!?」
実際は1分にも満たないのかもしれないが、永遠に続くかと思った。
カップが止まるや否や俺はトイレへGO。胃の中身を一気に戻し、それどころか胃液が鼻から出た。ヘリコバクターピロリ菌すら出し尽くしたような気がする。
トイレから出てくると、近くの広場から、勝ち誇ったような顔で六角が歩み寄ってきた。
「どうだった?」
「このやろう……コースターだめで、何でアレが大丈夫なんだよ……」
「三半規管には自信があるんだ」
俺の恨み言にも、涼しい顔だ。
「なめてもらっては困る。私は戦士だぞ?」
「……そうかい。じゃあアレも大丈夫だよな?」
「へ?」
俺が指差したのは、ブラックホール屋敷。おばけをエイリアンに代えたおばけ屋敷だ。得体の知れない触手が幾重にも巻きつき、牙なのか角なのかわからない突起が不規則に生え、くすんだビー玉のような目と思しき球体が乱雑に埋まる外観。
並みのお化け屋敷より怖い。建物を見ただけで泣き出す子どももいるくらいだ。
「……ふ、ふん。いつも怪物とたたた、戦っている私が、あんなもの……」
明らかに声が上擦っている。やはり怖いようだ。
「よぅし……じゃあ行こうか」
ここだけの話、実は俺もああいうのは苦手だ。テレビの心霊特集とかモンスターパニック映画とか見るくせに、その後消したテレビの映りこみとかカーテンの隙間が気になってしょうがなくなって電気つけたまま寝るタイプだ。
あれ? マントピエロの時に怖がりなのはわかってるって?
だがここで退くわけにはいかんのだ。後は野となれ山となれ。
俺も六角も、相手に怯えているのを悟られないように(六角のはバレバレだけど)平静を装ってブラックホール屋敷に入る。
その後はよく覚えていない。
俺も六角も入ってすぐのエイリアンのオブジェを見てメッキが剥がれ、絶叫しながら我先にと出口に向かって全力で走ったからだ。眼をつむっていたかもしれない。とにかく走った。一秒でもここから早く逃げるために。
覚えてるのは、出てすぐ見た六角の顔だ。涙を流し、それどころか美少女キャラにもかかわらず鼻水すら流していた。
しかし、それは俺も同様だったようだ。
結局、お互いの顔を見て笑ってしまった。我ながらベタだなぁとは思いつつも、悪くはないとも思った。




