あるある
「……え?」
つい咄嗟に強く言ってしまったが、屋根裏はレアオタクアイテムの隠し場所だ。入られては困る。
実害はないが、一応イメージ戦略ってもんがあるからな。謎のお兄さんって感じで行きたい。
「いや、何、お前さんみたいなうら若き乙女を、屋根裏なんかに住まわせられるわけないだろうが。二階の空き部屋の好きなやつ使っとけ」
何とか取り繕う。あんまり不自然だと逆に調べられたりしそうだからな。
「あ、ああ。念を押すが勘違いするなよ」
「晩飯なにがいい?」
「……好きにしろ」
「じゃあカレーだな」
「何がじゃあなんだ」
「気分だ。……それより」
「……それより?」
「いい加減荷物おけよ。重いだろ」
「あ、ああ」
意外におとなしく従い、荷物を降ろしてコタツに入る。とりあえず六角はほっといて台所でカレーの調理開始。
そして生まれる沈黙。
そうだな……折角だし会話しないとな。
「今日出てきたクチク級って強いのか?」
にんじんの皮をむきながら、背を向けたままコタツの六角に話しかける。
「む? そんな事も知らないのか? 貴様いったい……」
「それを知るためにここに住むんだろ?」
「そうだな。そもそもクチク級というのは……」
六角意外にドジっ子だな。俺調べに来てるのに、自分の事調べられてるのに気付いてない。
「バクサ空間内で人間選定を行うシレン衆。その構成員で、普段はシレン獣に人を襲わせているが、シレン獣の手に負えないほどの能力を持つ者や、われわれトウレンシが現れた時に出現する戦士シレン兵、その二階位だ」
一気に情報出てきたな。
えーと、昨日駅に現れたのはシレン獣で、六角がトウレンシで、今日のバルフレアがシレン衆って言う悪の組織で二番目に強いクラスって事だな。あと、あのオーロラがバクサ空間って事か。
「シレン兵は強い順にショウコ。次がクチク、一番下がバイジャクという。それぞれの階位の間には天と地ほどの実力の開きがある。クチク級以上は数も少なく滅多に姿を現さない。私もクチク級と遭遇したのは初めてだ」
ショウコ、クチク、バイジャク……松竹梅か。覚えやすいな。
「私が倒せたのも奇跡という他ない。今にして思えば、死神バルフレアといえば数多のトウレンシを殺めてきた魔人。もし心臓を一突きにできていなければ今頃は私のほうが……」
「ふ~ん……」
何だ意外によくしゃべるじゃないか六角の奴。こんな秘密ペラペラ喋っていいもんなのか?
まぁ、俺くらいしか信じるやついないだろうけどよ。いざとなりゃ記憶消せるからいいのか?
「何でシレン衆とやらは人間の選定をしてるんだ?」
「……そんな事も知らないとは……貴様本当はただの一般人じゃないだろうな……」
む。正解なんだが、それを疑われては計画が台無しだ。
ここは切り札を出しておこうか。
「そうかもな。昨日も駅で戦闘に巻き込まれても逃げ惑ってただけだしな」
「え……!?」
驚いてる驚いてる。横目でちらっと見ただけでも一発でわかるくらい驚いてるよ。
そりゃな、あの場にいた奴らの記憶は多分消されてるんだろうから、本来なら覚えてるはずはない。
「貴様……記憶が……」
眉をしかめてこっちを見てくる。
「物覚えはいいほうでね」
「食えない男だ」
あれ? もっと問い詰めてくるかと思ったが……。
「で? 何だってシレン衆はあんなとこに人閉じ込めて選定なんてやってるんだ?」
「潜在的バクリキ能力者を選定しているのだ」
「バクリキ?」
「……ふぅ。それも知らんか……。幾重にも存在する次元のうち、なぜ我々がこの世界に留まっているのか。それは、我々をこの世界に縛る力が存在するからだ。それがバクリキ。そのバクリキを操れる者はこの世界に縛られる事がない、すなわち他の世界に干渉する力を持つ。すなわち他の世界からエネルギーを引き出したり、世界を切り取りバクサ空間に閉じ込めたりもできるようになるわけだ。異次元に潜むシレン衆たちは人間がその力を自在に操れるようになるのを恐れている」
ふむ。縛る力で縛力ね。
ややこしいことを言っているが、要は次元を操る力ってことだな。
「お前も縛力使えるのか?」
「私のはそれほど強くない。バルフレアも言っていただろう末端トウレンシだとな。だが、貴様はどうなのだ? 縛鎖吸収を受けて記憶が消えないのならば、相当強力な縛力使いのはずだ」
なるほどね。さっき追及してこなかったのは、記憶が消えないイコール縛力使いって方程式ができあがったからか。
「残念ながら多分俺にゃそんな力はないと思うがね」
「!? な、まさか! それではホウリキ使いだとでも言うのか!?」
六角が叫んだ。凄い剣幕だ。
ホウリキとやらは相当特殊な力らしいな。
法力じゃあないよな? 坊さんとは関係なさそうだし。
「何だそりゃ」
「縛力が次元操作力なら、ホウリキは次元操作力そのものを吸収、放出する力だ! その持ち主は縛力は一切使えないかわりにあらゆる縛力を吸収し、自在に他者に融通することができる。縛力も無しに記憶を留めるなどホウリキしか有り得ないだろう!」
「珍しいのか?」
「歴史上数度しか確認されていない力だ! その力があればシレン兵は力を吸収され、その吸収された力はトウレンシに流れ込み、強大な力を得る!」
「放出する力で放力ね……な~る……あっ!」
そういうことか!
綺堂の力は放力だ! 間違いない。本人は気付いてないだろうが、六角との接触で目覚めるはずだったんじゃないか?
そして本当なら綺堂と六角の無敵コンビができるはずだったのだ。
……いかんな……。本来その条件の元に進むってことだから、放力なしでは乗り切れない化け物が絶対出て来るって事だぞ……。何か手を考えないと……。
「おい! 答えろ! 貴様は放力使いなのか!」
「違うよ」
「ふざけるな! じゃあ何なんだ!」
「敢えて言うなら、予知能力だな。何が起こるかある程度予測できる」
予知能力ってのは嘘だが、ま、お約束がわかるからだ、なんて言うよりは信用してもらえるだろう。
「バカな!」
ありゃ駄目か。カンカンに怒ってら。
「実際バルフレアの出現も読めてただろ?」
「くっ……なら今すぐ何か予知してみせろ!」
「そうだな。予知っつーか、バルフレアが倒されたからな、多分今頃……例のクチク級とかショウコ級やらが集まって、核心を突かない言い回しで詩人みたいな作戦会議やってんじゃないか?」
「はあ?」