思惑
『馬鹿な!?』
そして、その鎌を持つ、黒いフードを被った女も顔に驚愕の色を浮かべていた。
そりゃそうだ。何の前触れもなく、まるで予知したかの如く俺が攻撃をかわしたんだからな。
もし「疫病神だよ」の「だ」まで言ってたら、俺の首は飛んで、飛んだ首が「よ」って言って俺はおしまいだっただろう。
勝った! 来ると思ってたぜこのタイミングでな!
ジャンプの漫画なんかでよくある「主人公の嫌がる事をした一般人が真っ先に敵に襲われる」と「セリフの途中で首が飛ぶ」パターンだ。前者は「ホラー映画でバカップルが真っ先に殺される」くらいの確率な気がする。
黒フードの女は鎌が床に突き刺さって抜けず、あたふたしている。
「こらぁ六角! 何ぼさっとしてやがる! チャンスだろうが!」
「……はっ!?」
突然の事に呆けていた六角だが、俺の声で正気を取り戻したようだ。
「我が傍らに在りしは霊なる剣! 来たれ! 中窪霊戮錬刀!」
六角の手に刀が現れる。
『くそっ!』
黒フードは未だに鎌が抜けないらしく相当焦っていた。
「天裂く雷、見えざる銀嶺、降り注ぐ流星――断て! 中窪霊戮錬刀!」
六角は呪文を唱えながら突進する。
一方黒フードもやっと鎌が抜けたらしく、それを振り上げる。
だが遅い。既に六角の刀は黒フードの胸を貫いていた。
『かふっ!?』
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
六角は更に斬り上げた。
『ぐああああああああっ!』
黒フードは胸から肩を斬り裂かれ、絶叫した。
『バカな……。クチク級たるこの死神バルフレアが……敗れるなど……っ』
「クチク!?」
六角が驚いている。クチクってのは相当強いレベルらしいな。
……もしかしたら、ホントは倒したらいけないタイプの敵だったんじゃないだろうな……。
もっとこう、物語が進んでから再戦して倒す系のさぁ……。ほら、よくゲームでも敵の幹部といきなり戦闘になって負けてもゲームオーバーにならないやつ。とはいえ、倒してしまったものは仕方ない。
「なんでそんなクラスがこんなところに来ているのだ! 目的を言え!」
『そ……そうか……そんな事もわからん末端トウレンシに負けたというのか……』
バルフレアは血を吐きながらも口の端を吊り上げた。
『死神も落ちたものだ……くは……くははは……っ』
「答えろ! なんで貴様はここに……」
『くははははははははははははははっ!』
バルフレアの体から紫の炎が噴き出し、その身は瞬く間に炎に包まれた。
「くっ!」
慌てて飛びのく六角。
『はははははははははははははははははは…………』
バルフレアの笑い声は、その身が燃え尽きるまで続いた。
「終わったな」
俺は六角に手を差し出す。
「ああ」
六角はその手を握る。
固い握手――
「……って何握手しているのだ!」
六角が俺の手を払う。痛えっすよ馬鹿力ちゃん。
「大体貴様何者なのだ! クチク級の攻撃をかわすわ、先ほどは私の名前を呼んでいたな? 何なのだ!」
「知りたいか?」
「良いから言え!」
「そんなに知りたきゃ四六時中監視すりゃいい。俺ん家に住んでもかまわんぜ?」
「は?」