駅から始まるミラクル
都会でもなく田舎でもない地方都市繰撫市、その中心の繰撫駅。在来線だけでなく新幹線の駅も兼ねているのでそこそこ大きいが、「こだま」しか止まらないこともあり、普段はたいしてにぎわってない。
とはいえ今日は流石に日曜なので結構多くの人々が行き交っている。
その雑踏の中を全身ユニクロで、特筆すべき点もない平凡な青年が歩いていた。
どうも、真紅の稲妻、俺です。って誰がジョニー・ライデンやねん。
俺の名は脇山雑太。今年で二十二になるが、無職だ。
春に大学を卒業して一月、この不況で就職口もないのだ。
リーマンショックの馬鹿野郎! 必殺技の中でもフィニッシュ用じゃないヤツみたいな名前しやがって!
……というわけでとりあえずバイト先を探してるところだ。今日はバイトの面接で、それが隣町だから駅に来たんだが……。
「どうなってんだこれは?」
突然前方の地面に光るラインが現れた。ラインはぐんぐん地面を走り、周囲を円形に囲んだ。そして天まで届かんばかりに一気に光が噴き上がった。
直後、光が弾け粒子となり、円筒状に空まで覆った。
光は一色ではなく、様々な色が混じりあいオーロラのように不気味に輝いている。その壁は触ってみると硬く、とてもじゃないが壊せない。つまり出れない。
範囲は駅の一部を巻き込んで半径一〇〇メートルってとこか。空はさっきまでいい感じに晴れてたんだが、今じゃ上もオーロラに閉じられて見る事もできない。
要するにどこにも出口がないということだ。
周りにいた人たちが大騒ぎをしている。壁をバンバン叩くおばさん、携帯をかけようとしてるけど繋がらなくてキレてる女子高生、慌てまくる女性と、どうしていいかわからず傍らで泣くその子ども……。
しかし、俺は落ち着いていた。
理由は簡単。
自分で言うのもなんだが、俺はいわゆる「オタク」だ。漫画やアニメ、ゲーム、ライトノベル、何でも手を出している。部屋なんかもうおもちゃ箱をひっくり返したみたいにフィギュアやプラモで埋め尽くされ、本棚に囲まれた素敵空間だ。
だから、こんな状況さんざん読んできた。
珍しくもない。
こういう時は、大体怪物が現れるように「なっている」。70年代の特撮から、最近の深夜アニメまで、どれも同じ。妙な空間に閉じ込められたら怪物出現、黄金パターンだ。
「ギャシャー!」
ほらね。
目の前の虚空が渦を巻いて歪み、怪物が現れた。
大きさだけなら乗用車が一番近い。ただこんな気持ち悪い車なんてどのメーカーもだしてないが。
何せ、でかい顔面に目っぽい空洞が二つ、口が一つ。そしてその顔面から直接小さな手足らしきものがいくつか生えているという、逆グッドデザイン賞だからな。
見た感じ7、80年代のわかりやすい着ぐるみ感バリバリのデザインの怪物じゃあない。最近の流行のリアル重視モチーフなしの幾何学風味デザインに近い。
ということは、だ。最近(といっても10年以上ずっとだが)の流行イコール美少女。
下手なヒーローものよりヒロイン押しで行くほうが商業的に最低限の成功が約束されるというのが常識になってきたからな。出ないはずがないのだ。
もう少し待ってれば出てくるだろう。
それまでにやることは一つ。
人々の避難? 違う違う。逃げ場がないから無理だ。みんなパニックになってるから話も聞かないだろう。
やるべき事は観察だ。別に俺は人が襲われてるところを観察するような、悪趣味な人間じゃない。
観察するのは少年だ。と言っても、ボーイズラブ趣味があるわけでもないぞ。
じゃあなぜ少年を観察するかと言うと、そいつが主人公である確率が高いからだ。すばやく見極めて、そいつを封じなければならない。
何でって、俺が主人公になるためだ。