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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

3人兄妹の次男とその友達。

次男と友達。少しだけ長男と末の妹。

 マンションの4階、角部屋。オートロックを開けてもらって、友達の家の前。あらためてチャイムを鳴らすと、玄関からお兄さんが出てきた。満面の笑顔だ。




「お帰りなさいませ、お嬢さま」


「出迎えご苦労様です」




 お兄さんがうやうやしく礼をしたのを見て、労いの言葉をかける。顔を上げたお兄さんのエスコートに従って、家の中に入った。




「ご帰宅早々で申し訳ありませんが、お客様がお見えです」


「あら、どなたかしら?」


「お嬢さまのご学友でしたので、お部屋の方でお待ちいただいております」


「まあ。では急いで参りませんと」


「のちほど、お茶をお持ちします」


「ありがとう」




 ここまで、当然ながらお遊び。

 『玄関から出迎える』というシチュエーションに、いかに幅を持たせるか。毎回機転が試されるので気が抜けない。今日は比較的オーソドックスな、令嬢と召使いの日だった。この前は忍者風で、ただしい合言葉を言えないと入れてくれなかったことを考えると、今日の難易度は低め。ちなみに合言葉を言えなかったわたしは、友達にLINEして入れてもらった。お兄さんは遊びに全力出しすぎてると思います。

 お部屋、というのはもちろんわたしの部屋じゃなく、友達と妹ちゃんの部屋のことだ。さっきの会話を意訳すると「友達が部屋で待ってる」といったところ。お菓子も持ってきてくれるらしい。

 部屋の前までくると、中から友達の声がした。ひらめいたわたしは、ノックもせずに勢いよく扉を開ける。

 友達が妹ちゃんの宿題を見ていた。普通だ。




「だれかと話してる感じだったから、てっきり男の子を口説いてるんだと思ったのに……」


「いきなりなんだ」


「こう、口説くんだけどね? いつのまにか主導権は向こうに握られちゃってて、相手に押し倒されちゃうんだけど拒めないの! 『こんなはずじゃ……っ』『お前から口説いてきたんだろ? 責任とれよ』みたいなっ!」


「ここはお前の頭の中じゃない。現実だ」


「わかってる。君はヘタレ受けだもんね!」


「いや今のだと誘い受けじゃないのかって違う! わかってないな!」


「違うよ! 誘い受けは最初から受けなの! 君は攻めようとするんだけど攻めきれないからヘタレ受け! わかってないのは君だ!」


「どうしよう話が通じない」




 わたしは自分の想いを語った。語りきれないけど語った。いかに友達がヘタレ受けとしてすばらしいのか。彼はわたしのある種理想なのだ。ちょっとやさぐれている感じがポイントが高い。眼鏡かけてて頭が良さそうなのに残念なところとか、お兄さんには反抗してるように見えて実は尊敬してるとことか! 兄×弟。いや、お兄さんが優しくリードして弟×兄でも良いな。なんて素敵!




「ん、よし。合ってるみたいだな。今日は終わりでいいぞ」


「おわり! あそぶぞー!」




 気付けば友達は、妹ちゃんの宿題の答え合わせをしていた。いつのまに。時計を見ると、この家に来てから1時間はすぎている。ちょっと熱くなっちゃったかな?




「ああ、妄想の垂れ流しお疲れ様です。お茶飲む?」




 わたしの主張が途切れたのに気付いて、友達がお茶を差し出してくれた。しゃべり疲れてのども渇いていたので、ちょうどいい。ありがたく受けとる。




「お兄さん、お茶持ってきてくれたんだ。全然気付かなかった」


「楽しそうに話してたからな。そっときてそっと帰ってった」


「うん、久しぶりに語れたよ。満足!」


「そりゃ良かった」


「君はなんか、疲れた顔してるけど大丈夫?」


「そりゃな。あれだけやらかしてくれればな!」


「妹ちゃんの宿題、間違いそんなにあったの?」


「自覚ないのかお前は」




 理解できないものを見る目で見られた。

 ……いえ、ちょっと。ほんのちょっとだけどやり過ぎたかなとは思ってるよ?




「すみませんでした」


「ぁー、いや。わかってるなら良い」


「そう言ってくれると助かる」




 わたしには、こんな趣味を語れる場所がここしかない。ほまれ君以外の友達はみんな普通の子で、布教しようとはしてみたもののダメだった。かといって、1人でイベントに行ったりする勇気はない。

 しかたなく、カバーをかけたBLを学校で読む日々を送っていたのだけど。ある時、わたしが読んでいた本を見たほまれ君が声をかけてきたのだ。




「なあ、悪い。その本の中、チラッと見えたんだけどさ」


「?」


「それって、かけたり攻めたり受けたりするヤツだよな?」


「……もしかして」


「どうも、頭に腐がつく男子です」


「同じく女子です」




 そんな運命の出会いだった。これが運命でなくてなんだというんだろう。

 さっそくその日のうちにLINEを登録して、友達になった。

 そのあとはまあ、色々あって現在にいたる。最初はこの家に来ることも抵抗があったけど、今ではそんなことはまったくない。むしろ、思う存分話せて楽しい。




「……ぁ。そうだ、悪いと思ってるならさ」


「反省はしてるけど後悔はないよ」


「悪いと思ってるなら」




 スルーされてしまった。




「夏祭りがあるらしいんだよ。そこで奢ってくれ」


「いつ?」


「今日」


「急な話だなぁ」




 ちょっと気乗りしない。




「祭り囃子の中、浴衣姿で連れだって歩く男と友人。普段とは違う格好だからか、格好良く見える友人に驚きを隠せない。胸元からのぞく鎖骨に『あれ、こいつこんなに色気あったっけ』なんて思ってしまう自分がいる。友人が女だったら良かったのに、と漏れた呟きが友人の耳に入り『男じゃ、ダメなのか?』なんて真剣な顔で問う友人に戸惑い、けれど嫌悪感をまったく感じない。むしろ嬉しく思っている自分がいて、自分が自分じゃないみたいで、でもどうすれば良いのかわからない。そんな彼に友人が一言、『ずっと、お前だけを見ていたんだ』」


「なにしてるんですかはやく行かないとおいしいところを見逃してしまう!」




 ほまれ君を無理やり引きずって、夏祭りへ。

BLタグは嫌いな人用。

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