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五月二十九日
五月二十九日
だめ、やめて!
叫んだけれど、遅かった。
いったいいつからそこにいたのか。気がつかなかった。
どうして、そういうことをするの。ずっとひとりで平気なのに。
とっさに先生の左手を握った。まだあたたかかった、大きくてやさしい手。それを握ったまま、自分がどこに向かっているのかわからなくなる。どれが上で、どっちが下だろう。目がまわる。
先生の右手が、肩に触れた。やわらかな感触だった。守ってくれるのは、きっとあなただけでよかったよ。
時間の流れがとてもゆっくりに感じられた。ずっと、この時が続けばいい。そうなればいい。先生の腕の中で、すこしだけ思った。それなのに。
ものすごい衝撃を、身体全体に受けた。前が見えない、先生のにおいがする。ぬくもりが、身体の上に覆いかぶさっている。
ぐらぐらする、頭が激しく痛みはじめた。ほっぺにリノリウムの冷たさを感じながら、目を閉じた。
ああ、まだ目がまわっている。
ももたちは、きっといつまでも離れられないね。