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私はクエストを受けました

 私は草原フィールドに行くと、前の時と同じように、スライムを探した。


 そして、時間を経たずしてすぐにスライムが私の眼前にエンカウントする。


 昨日ぶりに見かけた、半透明の不定形生物。

 相変わらず、ぬるぬると動いている。


 さて、私がお金にならないスライムを探したのは、軽い準備運動を兼ねて、先ほど購入した武器の試し斬りのためである。


 私が購入した武器、それは小太刀だ。


 小太刀は、片手剣よりリーチや威力に関して少し劣るが、その重量の分、身軽になるため、防御より回避を重視しようとしている私にはうってつけの武器と言える。それに小太刀は片手剣よりも軽い故に、攻撃の手数が増え、命中率が高く、クリティカルが発生させやすい。そのため上手く使いこなせれば威力も片手剣以上のものとなることだろう。値段はそれなりにしたが、案外いい買い物だったのかもしれない。


 スライムに向けて私は小太刀を構える。


 その時ふと、普通に構えようか、格好つけて小太刀を逆手で持って構えようか、一瞬葛藤してしまったが、慣れないことをして失敗するのも嫌なので、普通に持つことにした。逆手持ちは後で練習することにしよう。


 私はスライムが攻撃の予備動作に入る前に、攻撃を仕掛ける。


 私が放った一撃は、スライムをすっぱりと横真っ二つに両断した。


 その切れ味は思わず、「おお……!」と声が出てしまうほどだった。


 切れ味が良過ぎるためか、癖になるあの感触がほとんど味わえなかったので、少し残念ではあったが、しかしまさか一発でスライムを倒せるとは思ってはいなかった。初期装備の武器よりは威力があることが分かっていたが、これほどとは。


 やはり、購入して良かった。これならすぐに宿代を稼げるかもしれない。


 少しの期待が湧いた私は、意気揚々と草原フィールドの奥へと足を進めた。




 ♢




 ある程度の時間、歩いていると私はある物が視界の端に止まったので、足を止め、そちらに目を向ける。


 そこには、一輪の花が咲いていた。

 花びらの色は淡い黄色を基調として、鮮やかでとても綺麗である。


 この花の名前はミカゲ草と言い、私が受注したクエストの片方である採集クエストの採集対象である。


 私は、とりあえず運良く見つけたので、これ幸いと採集するためにミカゲ草に触るのだが、



【アイテムを取得することが出来ませんでした】


 ……またこのメッセージが流れた。


 とりあえず一応、後何度か触れてはみるが、相も変わらずこのメッセージが流れる。

 フィールドでアイテムを入手する方法は二種類あり、モンスターを倒した後のドロップとフィールド内で生えている植物や落ちていたり、掘ると出てくる鉱石など、であるが、


 アイテム入手不可のバグが起こったことから、どうやら採集でのアイテム入手はモンスター討伐でのアイテムドロップと同義であるようだ。


 一応予想はしてはいたが、これは少し困った。何故なら、フィールドから素材などを採ってくるのが主な目的である、『報酬はあまり貰えない代わりに危険は少ない採集クエスト』を私は受けることが出来ても達成して報酬を貰うことが出来ないのだ。

 よって、私がこなすことが出来るのは、『危険が大きいが、その分貰える報酬が多い討伐クエスト』のみ。


 モンスターをカモとは言ったが、さすがに限度というものがある。採集クエストで割りの良いものがあったなら、当然そちらを積極的にこなしていこうと思ってはいたのだが、初心者にこのゲームを慣れてもらうのが目的のスライムで稼ぐことが出来ないのが今の現状である。そのためより危険なモンスターを倒さなくてはならない。


 これはデスゲームとなった今では、かなりのリスクだ。


 一応、運営に再びメッセージを送ろうとしてみるが、やはり出来なかった。


 仕方が無い。ここに立ち止まっていても、時間の無駄だと判断した私は、さっさと採集クエストを破棄して、そのまま奥へと進むことにした。




 ♢




 さて、私が今いるのは、草原フィールド中央エリア。先ほどまでスライムを狩っていた場所は草原フィールド序盤エリアである。


 序盤エリアは、このゲームに馴れてもらうための配慮がされていたが、中央エリアからはその配慮がほとんどなくなる。


 そのため、充分に気をつけなくてはならない。


 私は、周囲に気を配りながらゆっくりと歩みを進める。


 その風が私の頬を撫で、芝生の草をさらさらと揺らす。


 緊張が張り詰める中、じゅーじゅーと何かが焼けるような音が私の近くでした。


 素早くそちらを向くと、そこには巨大なワラジ虫がいた。

 大きさは子供と同程度。

 薄い茶色の甲殻の所々が、赤くなっている。


 これが私が受けた討伐クエストの討伐対象である赤熱ワラジだ。


 今回、私が受けた赤熱ワラジの討伐クエストのの討伐目標数は二十体だ。そして見つけたのなら、早速倒せばいい話なのだが、一つ問題がある。

 クエスト受付のNPCは初心者の私でも難なくこなせると判断して、私にこのクエストを薦めたのだろう。

 しかし、今はデスゲーム。一度のゲームオーバーは自分の死だ。そのため、モンスターとの戦闘は難易度が、大幅に上がっていると言える。


 つまり、NPCの判断した基準が、『何度か死んで達成可能』もしくは、『一度も死なずに達成可能』かが分からないのだ。


 昨日言葉を交わした男達は、見たとこ中級者と言った風だった。男達が気軽な雰囲気で二人笑っていたのは、おそらく自分達よりも格下であるモンスターしか出ないフィールドへ行って狩りを行っていたのだろう。故にある程度の実力があるなら、クエストのランクを下げれば危険は大幅に減るのだろうが、生憎初心者の私に下げることが出来るクエストのランクなんてものは皆無である。


 だから慎重にいかなければならない。


 私は赤熱ワラジの出方を注意深く窺う。


 名前の通り高熱を発しているようで、体全体から蒸気ようなものが出ていた。


 窺っていると突然、赤熱ワラジが私目がけて突進してきた。


 私は、即座に横へと回避すると、続けざま斬りつける。


 すると、赤熱ワラジは仰け反ると、こちらに反転した。


 私はスライムの時の教訓を思い出し、すぐさま後ろへと下がり、距離を取った。


 だが、幸運なことに赤熱ワラジはすぐには攻撃してこないようなので、今度はこちらから仕掛けることにした。


 以前より、身軽になった私の体は颯爽と地面を駆け抜け、そして斬りつける。


 離れる。斬りつける。離れる。斬りつける。


 それを何度か繰り返すと、


【経験値を獲得しました】


【アイテムがドロップしました】


 スライムのように一撃とはいかなかったが、数度の攻撃で赤熱ワラジを倒すことが出来た。まあ、スライムはお試しみたいなものであるし、当たり前ではあるが。


【赤熱ワラジ討伐数 1/20】


 私は一度深呼吸をする。


 スライムよりは動きが俊敏であったため、少しひやひやしたが、動きは単調。これなら問題なさそうだ。


 私はアイテムを踏み砕いた後、モンスターの討伐を続けることにした。


討伐クエスト 《赤熱ワラジの討伐》


依頼主 農場主バーバラ


内容 最近、モンスターが俺の畑を荒らして困ってるんだ。早い内に駆除しないと、作物が全部ダメになっちまう。頼んだぜ。


目標 赤熱ワラジ二十体


期限 三日以内




採集クエスト 《ミカゲ草の採集》


依頼主 封印されし右目を持つ者マイケル


内容 悪いが、草原フィールドからミカゲ草を採ってきて欲しい。理由? おいおい、本気で言っているのか? 貴様に我が偉大な理由が理解出来るとは思えんな。まあ、我が忌まわしき右目を再び封印するためだと言っておこう。フフ、怖気づいたか? まあ、無理もない。我はマイケル。数多の敵を冥府へ誘う魔眼を持つ者なり。我が依頼を受けられることを光栄に思うがいい! ふははは! ……え? そんなに凄いのなら、自分でいけばいいって? な、何をほざくッ!? わ、我が魔眼をスぃ、スライムごときに使うなど正気の沙汰とは思えんわッ! ……くッ!? どうやら右目の封印が解けかかっているようだ……くそッ! 事態は一刻の猶予を争う。貴様の存在が闇に呑み込まれたくなければ、早く集めてくるんだ!


目標 ミカゲ草十本


期限 明日までにお願いします。

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