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私だけでした

「あのう、すみません……ちょっといいですか?」


 私は笑い合っている男プレイヤー達に話しかけた。


「お、お、なんだ?」


「ど、どうした?」


 二人は私を見るとすぐに笑い声を抑え、いきなり挙動不審になり、目を左右させた。


「別に大したことじゃないんですけど、先ほどのドロップした素材について教えてもらってもいいですか?」


 私は愛想笑いを浮かべ、困っているといった表情で男達に訊いた。

 すると男達は口を変な形に歪めて、自慢気に口を開いた。


「ああ、それはな、『ポイズンタートルの甲羅』って言って、湿原フィールドの序盤のエリアでとれるんだ。毒を持ってるが、動きも遅いし、噛まれなければ問題無い。四、五人で囲んでしまえば、楽に倒せる」


「そうですか。そちらの方は?」


「俺のは、『ダガーウルフのたてがみ』ってんだ。これは草原フィールドの最奥エリアでとれる。こいつらは群れを成して襲ってくるが、物理攻撃しかしてこないし、何より魔法に弱い。攻撃魔法を使える奴ら三人ほど連れていけば、楽勝だな」


「へぇ、そうなんですかあ」と、私は相槌を打ちながら、自分が聞きたいことをそれとなく尋ねる。


「お二人は他の方達とパーティーを組んで、別々にモンスターを狩りに行ったんですよね? それなら他の方達も素材が沢山手に入っただろうなあ」


「まあな。俺のところなんてドロップしすぎてアイテム一杯になっちまって、その度にマネーに変えてたしな」


「スゴイですねえ」


「俺も俺も」


「スゴイですねえ」


 男達は上機嫌な様子で口を開く。


「そういや、君見たとこ初期装備だし、初心者か?」


「そうだな、まだ始めたばっかだろ」


 私は照れているというような表情を浮かべる。


「お恥ずかしながら、そうなんですよ。さっきスライムと戦ってみようと思ったんですけど、やっぱり怖くて……」


「まあ、そりゃしょうがないな。通常時でもそうだが、今となったらなおさらだしな」


「そうだな、気の毒にな」


 男達は同情した表情で頷く。


「そういえば、スライムを倒すと、何がドロップするんですか?」


「『スライムの核』だな」


「ああ、『スライムの核』だな」


「へえ、本当ですか? スライムに核なんてあるんですか?」


 私は疑わしげに男達を見つめた。


「ああ、あるさ。さっき肩慣らしがてら十体ほど瞬殺したしな」


「スゴイじゃないですか」


「俺も俺も」


「スゴイじゃないですか」


 男達からある程度情報を聞き出したので、私はお暇することにした。


「お二人ともありがとうございました。わざわざ初心者の私なんかに丁寧に教えて下さって」


 男達はまんざらでもない様子で鼻をこすった。


「気にするな。後輩プレイヤーを助けるのも先輩プレイヤーの務めだしな」


「ああ、そうだな。当たり前だ。気にするな」


「ありがとうございました」


 もう一度お礼を言うと、すると男達は気前がいいのか素材の一部を分けてくれると言ったのでお言葉に甘えた。


 私は最後にもう一度お礼を言ってその場を去った。


 後ろから、「あ、君名前は!」と声が聞こえたような気がしたが、気のせいだと思い、私は振り向かずにそのまま歩みを進めた。




 ◇




 大通りを歩きながら、私は思考を働かせる。

 男達との会話から、どうやらアイテム入手不可のバグは自分だけらしい。


 男達やその仲間もアイテムを拾うことが出来たと言っていた。


 やはり私だけ。


 最悪だ。何故バグにピンポイントに狙われなければならないのだろうか。


 このバグが修正されるのはこの先未定だろう。バグの対象はプレイヤー全員と思っていたので焦る必要はないと思っていたが、これは少し焦らなければなるまい。


 幸い、アイテムを他者に譲渡させることは出来るようだ。それなら誰かとパーティーを組んだり、ギルドに入ったりすれば問題は無くなるのだろうが、しかし私はそれを良しとしない。


 何故なら、ひきこもるのに他人とコミュニケーションをはかるのは以ての他であり、他人のスケジュールに振り回される可能性があるため、というのも勿論だが、最大の理由は、弱みに漬け込まれる怖れがあるということだ。世の中善人ばかりでは無い。この世界にどれだけのプレイヤーが閉じ込められているのかは分からないが、他人を騙そうとしたり脅そうとする人が少なからずいるだろう。ひ弱な女というだけで利用しようとしてくる輩がいる可能性も否めない。この世界には多分私の肉親や知り合いもいないだろう。私は今、天涯孤独の身であり、どれだけの間かは分からないが、この身一つで生きていかなければならない。先ほどの二人は気の良い人達だったが、それは単に結果から導き出された印象なだけであって、初めは見極める術がない。


 だから、私は単刀直入に話を切り出さなかった。


 自分の弱みを他人に見せるのはメリットよりデメリットの方が大きい。故に良くない。私はそう考えている。


 とりあえず、具体的な身の振り方は明日必ず考えるとしよう。


 私は男達からもらった素材を全て売り払い、宿に泊まった。


後で修正していきます。

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