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何か書いた方がいいですかね。えっと、ようやくまともにゲームプレイし始めましたね。もしよろしければ感想などお聞かせいただけるとありがたいです。
<ネクロ・ハーデス>神殿の中程に作られた中庭に、ギルド<ネクラキドリ>のメンバーが集合していた。その数、およそ60名。中庭は<ネクロ・ハーデス>神殿の中では唯一、緑に覆われた場所で、岩山をくり抜いたため基本的に薄暗い神殿の中にあってギルドメンバーの憩いの場所となっていた。
メンバー達は円を描くように思い思いの場所に座っており、その中心地には深紅のドレスに身を包んだバニラと一人の魔法使いが対峙している。ピンク色の衣装に身を包んだ魔法使いはどこか緊張した面持ちで身長よりも長い杖を両手で握りしめ、取り囲むメンバーに誇示するように眼前に掲げている。反面、バニラは余裕の笑みをたたえて、未だに杖すら持っていない。
「彼女、レベルいくつって言ったっけ?」
ジズは頬杖をついたまま、後ろの方でそんな光景を眺めている。隣にはリスが、背後には陽炎が座っている。ジズの問いかけに、陽炎が答えた。
「ええと、500とか、550とか」
「曖昧だなぁ。いいのか? そんないい加減で」
「あー、いいんだいいんだ」
陽炎は片手を挙げて、それを振ってみせる。
「うちは別にそんな厳しいギルドじゃねぇしな。この入団試験だって、別に合否を決めるわけじゃないんだ。単に加入希望者の実力を知りたいだけだよ。仲間がどんなことが出来て、どんなことが出来ないのか。それが分からなきゃフォローのしようも無いし、頼りようも無いもんな」
「さすがはもうすぐS級ギルドに昇格しようっていうギルドのリーダーだな。今回は加入希望者も4人だって? すごいじゃないか」
「茶化すなよな」
メンバーは各々、思い思いの歓声をあげてバニラや魔法使いの決闘を盛り上げていた。
エデンズライフは基本的にありとあらゆる攻撃がプレイヤーにダメージとして加算される。マップを徘徊しているモンスターは当然、プレイヤー同士の攻撃もそうだ。モンスターと戦う時はフレンドリィファイアに気をつける必要がある。だが、ギルド拠点におけるギルドメンバー同士の攻撃はダメージ換算されないという例外が存在する。それを利用したのがギルド<ネクラキドリ>、この決闘形式の入団試験である。
当然、ジズとリスもこの試験を受けている。その時はジズとリスの二人だけだった。有名な<炎帝騎士団>や<空の揺籠>は原則として年に一度か二度と決まっていて、希望者も毎回数百人から数千人に上る為、選抜も一次二次といくつもの試験をクリアしていかなければならない狭き門である。だが<ネクラキドリ>は常にメンバーを募集しているギルドだ。希望者があった時に随時試験を行っている。希望者が重なれば、今日のように日程を調整して同じ日に行う。だが、四人も一度に試験を行うのは久しぶりらしい。
「まぁ、なんだ。ここ数日、連続でクエストクリアしたからな。ギルドランキングが多少上がったんだろうな。ぶっちゃけ、お前のお陰だ」
陽炎はそう言ってジズの肩に手をやった。
「いや、俺はただ情報を提供しただけで、クエストをクリアしたのはみんなの実力だろ?」
「そうそう、ジズはほとんど何もしてないよねぇ」
ジズの言葉に、アリスが笑顔を向ける。彼女はショートパンツからすらりと伸びた両足を抱えるようにして座っている。
「なんだよ、リスだってほとんど何もしてないだろ?」
「わたしは弓兵だもん。先手必勝、一撃離脱がわたしのモットーなの」
「狙撃手みたいな物言いだな」
ファンタジー色溢れるエデンズライフの世界には、銃器に代表される近代武器は存在しないし、狙撃手と呼ばれる職種も無い。呆れるジズの頭上から、陽炎が中庭の中心を指差して声を上げた。
「おい、そろそろ始まるみたいだぞ」
彼の言葉にジズとリスはバニラたちの方へと視線を向ける。その時だった。中心で、爆煙が巻き起こった。地面に広がった炎から逃れるように、バニラが宙に飛ぶ。高さは五メートル程か。
「まずは新人の先制攻撃か」
陽炎が感心したように言った。
「魔法使い相手に飛び上がるのは上手いとは言えないけど」
「いや」
ジズは真剣な眼差しで陽炎の言葉を遮った。
「その辺を試してるんじゃないか? 空中で動きを止めた相手に的確に対処できるか。基本を押さえられてるか見てるんだ」
ジズの言葉の真偽はともかく、──新人の魔法使いの対処は的確だった。煙と炎が新しく魔法使いの身体から発せられた突風によって四方へと散っていく。聞き取れはしないが、まだ若い(きっと高校生だろう)魔法使いの口が、素早く呪文を謳いあげていくのが見て取れた。杖が青白く輝き、収束し、切っ先鋭い光弾として今だ宙で動きを止めているバニラに襲いかかる。
「魔法矢!」
リスが叫んだ。
「それも三本!」
陽炎の言葉通り、光弾は三つに枝分かれし、凄まじいスピードでもって上中下三方向から迫る。だが、バニラはそれを避ける素振りも見せずに、ただ右手を左右へと薙ぎ払うことによって弾き飛ばした。光弾はまるで透明の壁に阻まれるように軌道を変えて、放電しながら明後日の方向へと飛んでいく。それは地面から飛び出した特徴的な六角柱の岩に激突し、爆砕した。
「魔鏡壁か!」
今度はバニラのターンだ。空中で身を躍らせる彼女の微笑がそれを告げている。
「雷撃!」
突き出された華奢な彼女の腕から発せられた稲光が地を這う蛇のように新人魔法使いの身体を襲う。雷系の魔法の特徴はその速度だ。雷系と言っても、本物の雷撃が飛ぶわけではない。いくらなんでも200キロメートル毎秒で飛ぶ本物の雷を避けられるプレイヤーはいない。それではゲームバランスが狂ってしまう。バニラが発したのはそれらしい視覚効果で演出された疑似放電だが、それでもその特徴は強調されていて、あらゆる魔法の系統の中で雷系のものがもっとも速く敵に到達する。
だが、新人の魔法使いを貫くはずの雷は先ほどバニラに向けられた光弾のように歪なコースを辿って方向を違える。ちょうど、U字路に飛び込んだF1マシンのように。その先には、バニラがいた。咄嗟に身体を捻ったそのすぐ隣を、彼女が放った雷がかすめていった。危機一髪だ。
「誘導雷針か? ……彼女、結構やる」
「ああ。バニラが雷系を得意なのをちゃんと研究してるんだ」
バニラが地面に着地する。遅れていたドレスの裾がふわり、とそれに追随した。
「びっくりした!」
バニラの怒号が、広場に響き渡った。そのまま距離をとると見せかけて、地面に拳を突き立てる。
「地裂!」
瞬間。彼女から放射線状に赤い光が放たれる。彼女の唱えた魔法の効果範囲を示す光だ。魔法の効果が単体ではなく広範囲に広がる魔法は、このようにシステムがその効果範囲をコンマ数秒だけ目に見える形で表示してくれる。光が消えると同時に、それに照らされていた地面がぱっくりと裂けた。左は上に、右は下に。地面が細切れに分断され、一方が陥没し、一方が隆起する。
新人魔法使いは大きく目と口を開いたまま、盛り上がった地面に跳ね飛ばされるようにして宙を舞った。空中で一回転し、そのまま臀部をしたたかに打ち付ける。目をぱちくりさせ、驚きに硬直した彼女の眼前には、ようやく杖を取り出し眼前に構えたバニラの姿があった。
「上級雷撃!」
バニラが放った先ほどのものと比べて数倍の光量を持った雷撃は、今度こそ、きっかりと新人の魔法使いの身体を貫いた。その衝撃に彼女の身体が飛び上がり、そのまま隆起した巨岩に打ち付けられ、そして地面に転がった。ダメージが発生していないので痛みはなくとも、ノックバックと呼ばれる攻撃を受けた際の身体の反応はかなりリアルだ。
「そこまで!」
陽炎が立ち上がって叫んだ。その声に、ギルドメンバーがひと際大きな歓声を上げる。
「この勝負はバニラの勝ちだ! ……でも、ミューさんの動きもすごく良かったですよ」
ミューと言う名の新人魔法使いは即座に立ち上がり、陽炎の評価に笑顔で頭を下げた。バニラが近づいていき、その手を握ると、再び大きな歓声と拍手が二人に送られた。
「しっかし、中々見応えのある決闘だったなぁ」
ジズは中央部から退場する二人を眺めながら感心するように呟いた。バニラが魔法ででこぼこにしてしまった地面は、自動的に元の平地へと戻りつつある。完全に平らになるまであと十秒といったところだろう。張本人たるバニラは悠々とした足取りで段差を登り、ジズや陽炎のもとへと向かって来ている。彼女が手を振り、陽炎がそれに応えた。
「ああ、雷系一系統だけだと対策たてられちまうからな。地系も覚えてるんだよ、アイツ。まぁ滅多に使わないけどな」
「攻撃魔法と見せかけて地形干渉魔法とは……恐れ入るよ……新人の、えっと、ミューさんって言ったっけ? 彼女も咄嗟に防御魔法を展開したみたいだけど、あれで相殺されちゃったからなぁ……しかもあの魔法、発声が地震と似てるせいで対処し辛いな……いやぁ、それにしても見事な魔法戦だった」
「あの一瞬でそこまで読み取ったお前も末恐ろしいというか、なんというか」
金属で完全に覆われた頬を掻きながら、陽炎が呆れたように言うが、ジズは素知らぬ顔である。
「いや、確かにミューさんも的確な対処と前準備だったと思うよ? 多分、誘導雷針は決闘が始まるまえに自分にかけてたんだと思うし。でもバニラの機転はやっぱり歴戦の魔法使いって感じで渋いなぁ……。さすがに古参のプレイヤーは違うなぁ」
「誰が無駄に歳食ってるって?」
いつの間にか背後に回っていたバニラが、ジズの頭を小突き、ジズはそのまま三十センチ程飛び上がった。
「うわぁ。えっと、いえ、誰もそんなこと言ってませんよ?」
「ほらほら、次は君の番なんだから、しゃんとしなよ」
「え?」
その言葉に、ジズは眉を寄せる。わずかに思考してから、陽炎の方へと視線をスライド。陽炎の表情は隠れていて見えないが、何故かジズにはその顔が笑っているように見えた。
「あれ? 言ってなかったか? 次の新人の相手はお前だ」
「普段あれだけ私たちに偉そうに指図してるんだから、負けたら承知しないよ? 名参謀殿」
バニラの言葉に、ジズは口を開いたまま何も言い返すことができなかった。




