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第六章……約束

 


 殺された被害者の男の名前は、國藤大樹。俺の中学の時の担任だ。

 当時、俺は國藤からいじめを受けていた。その原因については、はっきりと分かっていないが、どんな理由があるにしろ教師が生徒をいじめるなんて許されることじゃない。

 國藤からのいじめのせいで、俺は自殺までも考えたのだから。

 俺はようやく、全てを思い出した。俺の過去に何があったのか、そして何故、國藤は殺される羽目になってしまったのか。

 俺が見ていた夢の内容は、やはり過去の映像だったのだ。夢では、俺が一人でいる教室に、國藤が入ってくるところで場面が変わってしまうが、おそらく場面が変わる前の教室で、暴力を受けたのだろう。

 これで、俺が屋上から飛び降りようとしていたことにも説明がつく。國藤から受けた暴力のせいだ。

 そして、俺が飛び降りようとすると、ある少年が屋上にやってきて、一緒に國藤を殺そうという話を持ちかけてくるのだった。

 その少年こそが、國藤を殺した犯人で俺の唯一無二の親友、黒総大胡なのだ。

 でもそれだけじゃ、大胡が國藤を殺したとは限らない。國藤が殺された動機は、人間関係のもつれだとか、俺以外にもいじめていた教え子がいて、そいつによる復讐だったのかもしれない。

 けど、俺は大胡が殺したと確信している。そっくりなんだよ、俺と大胡が考えた國藤の殺害計画と。

 俺は、大胡の一言で自殺を思いとどまった。その一言とは、國藤を一緒に殺そうというものだった。

 殺意があったのかどうか定かではないが、大胡が放ったあの一言で自殺を止めたということは、当時の俺はかなり追い詰められていたと考えられる。

 俺たちは屋上で向かい合って座り、大胡が取り出した大学ノートに、國藤の殺害計画を思いつくままに書き綴った。

 気がつくと、大学ノートは何十ページも文字で埋め尽くされており、俺はもうすでに國藤を殺した気分になっていた。

 一通り書いて、大胡はいくつもの殺害計画の中から、一つを選んで赤丸をつけて言った。

「これ、いいね」

 その殺害計画というのは、頭を鈍器で殴り殺す、という非常に単純なものだった。俺的には少し不満だったが、それ以外の殺害計画は、どれも現実味を帯びておらず、実際に実行できるとしたらそれしかなかった。

 俺はその殺害計画に、もう一度目を通した。

 これだったら、簡単に國藤を殺せるかもしれない。あいつが一人の時を狙って、後ろから鈍器で頭を思いっきり殴れば、即死だろう。

 俺は頭の中で、いろいろとイメージを浮かべた。こうして殺害計画をいくつも書く度に、あいつへの殺意は徐々に膨らんできてしまったのだ。

「あいつを殺せば、お前は自由だ」

 大胡の言ったその言葉に、俺は魅力を感じた。自由になれたら、どれだけいいだろうか。

「やるのか、やらないのか?」

 選択を強いられたとき、俺は考えた。

 自由を選び、憎き担任を殺すのか、それともこの殺害計画を実行せずに、卒業式まで國藤からのいじめに耐え続けるのか。

「どうする?」

 俺は大胡を見た。

大胡の目には、かすかな殺意が込められていた。

 そこで、俺は思ったんだ。

 こいつは俺のためじゃなく、単に人を殺したいだけの理由で、俺の気持ちを利用しているだけなんじゃないのか、って。

 そう思うと、なんだか急に冷めてきた。

「いいよ、もう」

 冷め切った口調に、大胡は腹を立てて怒鳴りちらした。

「いいのかよ、それでも! このまま卒業するまで、あいつからいじめを受け続けるのか?」

 俺は大胡を諦めさせるために、頷いた。

 それからは、俺と大胡は学校で顔を合わせても喋らなくなり、すっかり疎遠になってしまった。

 あの日が、俺たちの関係を変えてしまったのだ。

 俺の心のよりどころは、あいつだけだったのに。

 それなのに、あいつは俺から離れていった。

 大胡が俺に声をかけてきたのは、卒業式が終わった直後だった。

 ようやく卒業だと、歓喜に満ち溢れていた俺に大胡が近寄ってきて、あの日俺たちの関係を変えてしまった元凶である、國藤の殺害計画が書かれた大学ノートを差し出してきたのだった。

「これが最後だ。お前は、あいつを殺したいと思っているか?」

 俺は肯定も否定もせず、黙って親友を見つめた。

「分かった。なら、これだけは約束してくれ」

 大胡は、俺に懇願するかのような口調で言った。

「この殺害計画を、俺たちのどちらかがいつか実行すると」

 大胡の言っている意味が、俺には全く分からなかった。もう卒業するのだし、あいつを殺しても何のメリットも生じない。それに、俺にはもう殺意なんてない。

「俺たちが大人になったら、あいつに復讐しよう。それまで、俺がこれを預かっておく」

 言うと、大胡はその大学ノートをかばんにしまった。

 ここで拒否すれば、大胡は怒鳴り散らしまた厄介なことになるだろうと、俺は予想した。気まずいまま卒業なんてしたくないと思った俺は、黙って頷いた。

 俺が簡単に頷いたもう一つの理由は、もう大胡とも会うことはないからだった。大胡は、父親の仕事の都合上で引っ越すことになっていたので、適当なことを言っておいても、どうせもう会うことはないのだからいいだろうと思っていたのだった。

 それらの忌まわしき記憶を、俺は無意識のうちに忘れ去ってしまっていた。しかし、大胡は一日たりとも忘れていなかったのだ。

 そして、あの日交わした約束を、ついに実行したのだ。

 俺があの時、安易に頷きさえしなければ、あいつは國藤を殺さずにすんだのかもしれない。

 とにかく、俺はあいつを見つけて必ず自首させなければならない。

 それが、俺の使命だから。



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