最終章……終幕
申し訳ございません。投稿が遅れてしまいました。予約を、間違えて七時に設定していることに気がつきまして。
ここで、ようやく最終章なのですが、本編同様、エピローグが存在しますので、最後まで読んでいただければと思っています。エピローグは、間違いなく七時に設定されていますので、大丈夫です。
本当に、申し訳ございませんでした。
「あんたに憧れているんだってよ」
「誰が?」
「俺の親友」
少しおどけながら、俺は言った。
トイレの中で電話するのは、いささか不愉快だったが、今すぐに電話をしたいという衝動に駆られ、こうして西島に電話をかけているのだ。
「まあ、俺に憧れているやつは一杯いるだろうな」
自分の手柄のように喋っている口調には腹が立ったが、何とか堪えた。
「お前は数年後に警視庁の捜査一課に異動できるようになっている」
「ほう」
満足げに、西島は相槌を打った。
完全に、天狗だな。
「その捜査一課で、お前はさらにキャリアを積んで、刑事部長クラスの係長になる」
「そういう契約だもんな」
「ああ。ただし、係長止まりだけどな」
「覚えているよ」
俺は軽く微笑を浮かべた後、続けた。
「なら、二つ目の条件も覚えているか?」
「二つ目の条件?」
西島が聞き返してきた。
「俺の指示に従う、っていう条件だよ」
「ああ、そうか。確か、そうだったよな」
忘れていたのかよ、こいつ……まあ、いいや。
「俺は、あるやつを刑事にさせる」
「つまり、裏口入学っていうやつか?」
西島の例え方に若干。苛立ちが湧いた。まあ、こういうやつだから仕方ないのか。俺は今更だが、こいつをチョイスしたことを後悔している。
「簡単に言うとな。それで、最初の話に戻るんだけど」
「俺に憧れている、お前の親友か?」
「そうだ。そいつを、いつか捜査一課の刑事にしようと思っているんだ」
電話越しで、西島が唸っているのが聞こえてきた。
「どうした?」
「いや、色々と気になることがあるんだけど」
「言ってみろよ」
しばらくの沈黙があった後、西島は口を開いた。
「まずさ、そいつ刑事になるつもりあるのかな?」
その疑問の答えは、簡単だった。
「あるよ」
「いや、けど将来の夢は変わると思うぜ」
「大丈夫だ。あいつは高二で、将来の夢を決めたと言った。お前のような刑事になるって。つまり、あいつは進学しないで、警察になるための試験を受けるはずだ」
「もし落ちたら?」
「評価や点数が足りなければ、田口に頼んで無理やり合格させるよ」
「田口の能力を買いかぶりすぎじゃないのか?」
「そんなことない。やつはきっと、やってくれるよ」
俺は改めて、田口のことを心の底から信頼しているのだと、痛感させられた。あいつは何でも出来ると、俺の中で認知されているのだ。
「で、他に質問は?」
「仮に、そいつが捜査一課に異動してきて、俺にどうしろと?」
「そいつを、全力で守れ」
「は?」
「だから、そいつが来たら、何が何でも全力で守れってことだよ。へまをしても、刑事部長クラスの地位を持っている係長のお前だったら、守れるだろう?」
言葉の意味を、西島はいまだ把握できていないようだったから、さらに説明してやった。
「俺の力で、あいつを警視庁の捜査一課に配属させるんだ。あいつの実力じゃないんだよ。だから、能力は他のやつより劣っていることは、容易に想像が出来る。周りのやつからも疎まれる危険がある。それを、なんとかあんたがフォローするんだよ。できるな?」
「けどなぁ……」
「べつに、そんなに難しいことを頼んでいるわけじゃない。あんたのやりかたで、あいつがクビにならない程度に守ってくれればいいんだよ」
言い終わった後、終着駅に到着するというアナウンスが流れた。
「いいか。何年先になるか分からないけど、その時はよろしく頼むぞ」
「まあ、分かったけど」
まだ西島は不服そうにしていたが、降りなければいけないので俺は電話を切り、トイレを出た。
まさか、この事件を起こしたことでこんな収穫があるとは思わなかった。
俺はもうすでに、あいつが刑事になっている姿を想像して、新たな計画を構成していた。
卒業式の日に交わした約束、あいつは覚えているだろうか。
そんなことを思い浮かべながら、俺は光のまつ席へと戻った。
「遅かったじゃない」
席へ戻るや否や、光は口を尖らせて言った。
「ああ、悪い」
悪びれる様子もなく言った俺に、光はさらに文句を付け加えていた。
俺はそれらを無視して、車窓に映る風景を眺めていた。
『間もなく、終点――』
アナウンスが再び流れ、光は隣で降りる準備を始めていた。
俺はその姿一瞥して、微笑んだ。
この瞬間、実感が湧いたんだ。
ようやく、俺の長い長い夏休みが幕を閉じたんだと――。