第十七章……全貌
『いやぁ、今のVTR、御覧になってどうですか? やはり西島刑事は、神南市にとってヒーロー的存在でしたね』
『え、ああ、はい』
『どうされましたか?』
『べつに、どうもしません』
『そうですか。それじゃあ、もうお時間ということで、最後に一言、お願いします』
『殺人は、絶対に許されません。私たちは、全力を尽くして、これからも犯罪者の逮捕をしていくつもりです。もう負けません』
『ありがとうございました。ゲストは、柿崎勉係長でした』
俺は携帯を閉じ、イヤホンを外した。
「何見ていたの?」
今まで、隣で熟睡していた光が目を覚まし、俺のほうへ顔を向けて訊いてきた。
「ワンセグ見ていたよね?」
光の瞳には、若干興味を抱いている様子が窺えた。
「まあ、ニュースだよ」
「ニュース?」
俺は頷いて、車窓へ目を向けた。
俺たちは今、帰りの新幹線に乗っている。もうそろそろ着くころじゃないかと、俺は思った。
「あたし、どれぐらい寝ていた?」
「もう一時間は経つんじゃないか」
「そっか」
いいながら、光は瞼をこすって再び目を瞑りだした。俺はその姿を、微笑ましく見守っていた。
今の俺は、心が穏やかだった。
というのも、全てが、滞りなく完了したからだった。
事の全貌を説明すると、俺は暴力団の構成員、萩原を嘘情報で廃工場におびき出した。嘘情報というのは、もちろん麻薬取引が行われるというものである。
俺の親父と、萩原が所属している暴力団のトップは繋がっている。親父の息子の俺が、トップに一言言えば、萩原を廃工場におびきだすことなんか朝飯前なんだよ。
あとは、萩原が今回の事件の犯人だという証拠を周到に用意すれば、完了である。萩原のポケットに、凶器のサバイバルナイフをしのばせ、そこに西島を行かせれば、萩原を捕まえることが出来る――そして萩原は、まんまとこの事件の犯人に仕立て上げられるのだ。完璧な計画だ。
田口の活躍も、忘れてはならない。田口は、警視庁のコンピューターにハッキングをし、我々にとって都合の悪いあるゆる情報を改竄するという偉業を成し遂げた。田口いわく、中には都合の悪い情報もあったという。
ともかく、俺は生きがいを達成することが出来た。俺としては満足なのだが。
これから先、何を糧に生きていけばいいのか正直分からず、俺は複雑な心境を抱いていた。
俺を突き動かしていたのは、人を殺したいという欲求のみ。それがあっけなく達成された途端、無気力になってしまい、動きたくなくなってしまったのだ。
「ねぇ、どうしたの?」
再び目を開けた光は、俺の顔を覗きこみ心配そうな表情を浮かべ言ってきた。
「いや、べつに」
素っ気無く返事をした刹那、脳裏にひらめきが浮かんだ。
まだ俺には、残されているじゃないか。
「ちょっとごめん」
言って、俺は席を立ち上がり、携帯を握り締めてトイレに向かった。
最後の仕事をするために――。