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第十六章……ニュース

『二日前、五人の被害者を出した神南市無差別殺人事件が、ようやく終結を迎えました。

 容疑者は、過去に傷害事件を数回起こしている、暴力団の構成員、萩原竜神。三十五歳。今年神南署の刑事課に配属されたばかりの、西島竜馬刑事が萩原を逮捕しました。

 というのも、西島刑事と萩原は某廃工場で一対一の状況になったそうです。萩原を倒し、胸ポケットから今回の事件の凶器と思われるサバイバルナイフを見つけ、西島刑事は銃刀法違反で現行犯逮捕し、署へ連絡したそうです。サバイバルナイフの鑑定はもうすでに終わっていて、被害者の血液と綺麗に一致したそうで、正式に萩原が犯人だということが決定しています。

 ところで皆さん疑問に抱かれていると思うのですが、何故そのような局面が現れたのかというと、萩原は麻薬の取引相手をその廃工場で待っていたと言うのです。西島刑事は、萩原を今回の犯人だとにらんでいました。萩原を追跡し、廃工場に辿り着いて、そのような状況になったのです。

 そして、萩原が待っていた相手というのは、所属している暴力団の、長年麻薬の取引相手であった同じく暴力団の構成員でしたが、結局あの場には現れませんでした。もし現れていれば、その構成員も検挙できたはずです。

 ともかく、事件は無事に解決し、神南市に再び平穏な日々が訪れようとしています。これでようやく、安心して暮らせそうです。

 と、ここで西島刑事が萩原を逮捕した直後のインタビュー映像をお見せします。そちらを、御覧ください』


『今年神南署に配属されたばかりなのに、すごい活躍じゃないですか』

『いえ、大したことないです』

『いやぁ、本当に脱帽しました。神南市民を震え上がらせていた無差別殺人事件を解決していただき、全員が感謝していると思いますよ。西島刑事は、我々のヒーローですよ』

『誉めすぎですよ』

『照れることないじゃないですか。胸を張ってください』

『はあ』

『話によりますと、他の刑事たちは萩原をノーマークだったとか。何故あなたは、萩原が犯人だと思ったのですか?』

『捜査の過程はまだ詳しくお話しするわけにはいかないです』

『それは残念です。いずれ、お話いただけるんですか?』

『はい。落ち着いた頃に、必ず』

『ありがとうございます。もう少し、質問してもよろしいですか?』

『ええ、もちろん』

『西島刑事は、よく萩原のもとへ一人で行こうという気になりましたね』

『はい。あの後、麻薬の取引が行われる予定でしたので、数が増える前に突入しようかなと』

『仲間と一緒に、萩原のもとへ行かなかったのは、何故ですか?』

『萩原がノーマークだったということと、まだ僕は新米ですので、先輩方を頼る勇気がなかったのです。そのことで、さっき先輩に怒られましたけどね』

『そうですよね。捜査に、先輩後輩は関係ないですもんね』

『まったくその通りです』

『手錠をかけた直後に、署へ連絡したのですか?』

『はい。萩原の胸ポケットから事件の凶器と思われるサバイバルナイフが出てきて、確信が持て、連絡しました』

『これから鑑定ですが、犯人に間違いはないですよね』

『私も、自信を持っています』

『連行する際、犯人は強く否認していたそうですが、いかがですか?』

『やつが犯人で間違いありません。断言できます』

『はい。西島刑事、事件解決直後なのに、インタビューに付き合ってくださいましてまことにありがとうございました。これからも、がんばってください』

『ありがとうございます』


『……はい。西島刑事、本当にありがとうございました。

 いやぁ、しかし一安心ですね。さあ、ここでゲストの登場です。神南署刑事課強行犯係係長、柿崎勉氏に来ていただきました』

『どうも』

『どうですか? 自分の部下が事件を一人で解決しちゃいましたよ』

『ええ、本当に誇らしいです』

『柿崎氏も、昇進が決まっているとか』

『そんな話、どこから聞いたんですか。困ったなぁ』

『警視庁の上層部から直接、我々のもとへ連絡が来たんですよ。あなたのことも、話してくれって』

『そんなことが……』

『ええ。上層部の方から、昇進のことについて話してくれといわれたもので。いずれ、さらに上を目指すのでしょう』

『ええ、まあ……』

『どうしたんですか? 顔色悪いですよ』

『いえ、大丈夫です』

『しかし、凄いですよね。西島刑事が、神南市民に与えた影響は素晴らしいものでした』

『と、いうと?』

『実はもう一本、VTRがあるんですよ』

『どのような内容なのですか?』

『神南市民の方数十人に、西島刑事の活躍ぶりをアンケートしたVTRです。非常にいい答えが返ってきました』

『興味深いですね』

『はい。それでは今から、そのVTRをお見せします。どうぞ』


『ちょっとすいません』

『はい?』

『少しお時間、大丈夫ですか?』

『ええ。まあ』

『今、おいくつですか?』

『二十歳です』

『大学生ですか?』

『はい。専門に行っています』

『昨日のニュース、御覧になりました?』

『ええ、あの無差別殺人事件の犯人が捕まったんですよね』

『そうです。どう思いました?』

『いや、すごく嬉しいです。これで今日から、安心して暮らせそうです。西島刑事は、僕らにとってヒーローですよ』

『ありがとうございました』


『お忙しいところすいません。少しお時間よろしいですか?』

『え、は、はい』

『失礼ですが、今おいくつですか?』

『二十七です』

『お仕事は?』

『キャバクラで働いています』

『昨日のニュース、あの無差別殺人事件の、御覧になりました?』

『もちろんです。本当、西島刑事かっこよかった』

『何か、西島刑事に言いたいこととか、ございますか?』

『西島刑事、いつかうちのキャバクラ遊びに来てください。その時は、サービスします!』

『ありがとうございました』


『ちょっといいかな?』

『え……なんですか?』

『報道番組なんだけど、取材したいんだ』

『べつに、いいっすけど』

『君、高校生だよね?』

『はい、高校二年生です』

『昨日のニュース、見た?』

『無差別殺人事件のやつっすか?』

『そう。そこで、単刀直入に聞くけど、事件を解決した西島刑事について、どう思う?』

『ああ。そのことですか。いや、本当感動しちゃって。俺、夢とか、希望とかそういうのなかったんですけど、西島刑事の姿を見て決まりました』

『へぇ。差し支えなければ、聞かせてもらえないかな』

『俺の夢は……西島刑事のような、刑事になりたです』



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