第十三章……次の段階
「そろそろ動くのか?」
電話越しでの田口の声は、いささか興奮を帯びているように聞こえた。
「そうだな、これ以上引き伸ばすと逆に怪しまれる」
小声で俺は田口に言った後、誰にも聞かれていないか辺りを見回した。やはり、先ほどと変わらず辺りに人気はなかった。
俺は今、公衆電話から田口に電話をかけていた。計画の調整をするためだ。というのも、現在五人の人間を殺し、そろそろ計画を次の段階に移さなければならなかったからだ。
そのためには、田口との相談が必要だった。故に俺は、田口に電話をかけている。
しばし田口は黙っていたが、やがて自分の意見を述べ始めた。
「お前の言うとおりだ。俺もニュースで見ていたぞ。神南市無差別連続殺人事件というタイトルがつけられていたな。今は俺のほうも尽力して、お前に捜査の矛先が向けられないようにしているが、これから殺人を続けるとなると、さすがにきついというのが本音だ」
「べつに、警察は俺のことを疑っていないだろ?」
「確かにそうだ。お前のことを疑うわけがない。あの親父さんの息子だからな。そうでなくたって、高校生がこんな事件起こすなんて、って思うだろ」
「まあな」
「俺が言いたいのは、いつボロが出てもおかしくないっていうことなんだ。いくらお前が気をつけて人を殺しても、目撃者がまた出てしまうかもしれない。そうなったとき、俺はお前のことを庇いきれない、っていうんだ」
田口の言っていることは、正論だと思った。もうこれ以上、殺人を続けることは出来ない。心のどこかで、そのような覚悟が芽生えていた。
「いいな?」
田口の諭すような口調は、俺に一種の安堵感をもたらした。
「ああ。サンキューな」
「で、お前がいう次の段階は、いつやるんだ?」
「そのことは、すでに俺の中で決まっている。先日、俺が話したこと覚えているか?」
「ああ」
田口の返事は早かった。
「なら、その通りにやってくれ。俺のほうも上手くやる。幸い、警察の捜査は難航しているようだからな」
「俺のおかげ、っていうことを忘れないでくれよ」
「分かっているよ」
警察が入手した手がかりや、目撃証言など、田口はサーバーにハッキングして改竄していたのだ。
「お前のほうも、がんばれよな」
田口の言葉は、俺にとって励みになった。
意外といいやつかもしれないな、俺は田口にそのような印象を抱きつつあった。まだあって話したことはないが、意外と話が合う気がした。
「それじゃぁ、切るな」
俺は受話器をかけて公衆電話から出た後、柿崎から受けとった携帯電話をポケットから出した。
「はい」
数秒後、眠そうな柿崎の声が聞こえてきた。
「寝ていたか?」
「いや、寝かけていた」
少し、柿崎は不機嫌そうだった。
「悪いな。一応、報告しておこうと思っていて」
「報告?」
俺は歩きながら、今後の方針について柿崎に説明していた。といっても、夜も遅いし、大雑把に。
「そうか、いよいよか」
「ああ」
「明日、西島に電話をかけるのか?」
「そのつもりでいる」
冷静に、俺は言った。
「やけに落ち着いているな」
「当たり前だろ。明日にかかっているんだ」
立ち止まってから、夜空に浮かぶ月を見上げ、俺はこの一週間のことを振り返っていた。
一週間で、俺は五人もの人間を殺した。全員同じ凶器で、同じ殺害方法で。
人間って、こんな簡単に死ぬもんだなと、サバイバルナイフで刺したとき他人事のように思っていた。
「もう、十分だよ」
俺は、呟くように言った。
「え?」
柿崎は聞き取れなかったらしく、聞き返してきた。
「いや、なんでもない」
言って、俺は再び歩き出した。
「じゃあ、明日がんばってくれ」
柿崎の声は、かけたときよりかは幾分上機嫌のような気がした。おそらく、この一件が片付いたときのことを想像しているのだろう。昇進できるからな。
俺はため息をつくと、ゆっくりと自宅に向かった。




