第十一章……殺人
午前一時に、俺は帰宅した。
何故そんな遅くなったかというと、漫画喫茶で計画の仕上げをしていたからだ。
俺はどうしても一人で考えたかった。漫画喫茶だったら、個室で出来るからいい。家に帰ると、光がいるだろうから、どうしても集中できないし、万が一見られた場合、計画は破綻してしまう。
計画を完成させ、俺は堂々とした足取りで帰宅した。
案の定、光は前俺が使っていた寝室でぐっすり眠っていた。俺は、親父たちが使っていた寝室で、寝ることにした。
今のうちに、体力を回復しておかなければならない。
明朝、一人目の殺人を行うからだ。
無差別なので、ターゲットは特に決めていない。しかし、女、子供を殺すまで俺は落ちぶれてはいなかった。殺すのは、社会のごみどもだ。
べつに俺は、正義を気取っていない。むしろ、悪いことだと自覚している。
けど、これが俺にとっての生きがいだというのだから、殺すしかないのだ。
その殺す相手が、社会の悪影響を与えているごみどもなのだ。
「寝られるかな」
俺は横になりながら呟いた。これからのことを考えると、目が覚める気がしていた。
しかし、それは杞憂に終わった。ぐっすり、眠ることが出来たのだ。
そして、午前六時三十分、俺は目を覚ました。
俺はカバンを背負い、この暑い中ウィンドブレイカーの姿で外に出て、少し歩いた。ターゲットを見つけるためだ。
光に見つかったらどうしようかと思っていたが、光はまだ夢の中だったので好都合だった。
しばらく歩くと、居酒屋の前で酔った若者が、若くて綺麗な女性にちょっかいを出している現場を目撃した。
笑いを堪えるのに必死だったよ。
何故って、まさかこんなにも早く、都合よくターゲットが見つかるんだもんな。神様が、俺に殺せと命令しているとまで考えた。
若い女性は、若者を振り切って何とか逃げ出した。若者は、その女性の後姿を目で追いながら、大声で悪態をついていた。
「てめーごときのブス、相手してくれるだけでも、ありがたく思えよ!」
なんて酷いこというのだろうか。まあ、これで俺の決心も固まったから、よしとするか。
「ちょっとすいません」
俺は若者背後に回って、声をかけた。若者はおぼつかない足取りでこちらに振り向いた。目が虚ろだ。
こいつなら、簡単に殺すことが出来る。
「ああん」
ふらふらしながら、男は俺を威嚇した。
怖くねぇよ。
「すいません、ちょっとあそこの路地で、若い女性が倒れているんです。どうやら、足をくじいたらしくて」
男は俺の話しに、興味をもったようだ。ふらつきながらも、俺が指差した路地のほうへ向かった。
「どこだよ、足をくじいたねぇちゃんは」
やはりこいつは、くずだ。
俺はポケットの中に潜めてあるサバイバルナイフを確認した。
本当に、俺の記念すべき最初の殺人がこんなくずでいいのだろうか。考え直そうかな。
そうこうしているうちに、男は人気のない路地に入っていった。
もう後戻りは出来ない。こいつを殺そう。
俺は男についていきながら、覚悟を決めた。
「おい、ねぇちゃんなんていねぇじゃねぇか」
男は振り向きざまにそういった後、目を見開いた。
俺は、右手でポケットからサバイバルナイフを抜き。振りかざした。
男はすっかり酔いが醒めてしまったようで、懇願するような瞳を浮かべた。
「悪い、助けてくれ」
しかし、俺はそれに応じず一気にナイフを振り下ろした。
ナイフは胸に刺さり、そこから一気に鮮血が噴出した。
数秒間、男は苦悶の表情を浮かべていたが、やがて静かになり地面に崩れ落ちた。
俺は、男の血がたっぷりとついたウィンドブレイカーを脱ぐと、サバイバルナイフとともにカバンの中にしまい、近くのトイレに駆け込んだ。
男の血で汚された手を、何回も石鹸で洗い綺麗にした。顔にも血は飛び散っており、口の中にも入ってしまった。
くそ、汚ねぇ。
けど、俺は人を殺したんだ。
意外と、簡単だった。
俺は、綺麗になった自分の両手を目のところまで持ってきて、しばらく眺めていた。
「人を……殺したのか」
再度、呟いて自分自身に確認をとった。
これから俺は、どんどんと人を殺していくだろう。
もうそれ以外、選択肢はないのだから。
俺はトイレを出て、柿崎と待ち合わせしている公園に向かった。