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第八章……新たな計画

 

 


 高校に進学したと同時に、俺はあることを考え始めた。

 國藤の殺害計画をはるかに超える、恐ろしき計画だった。自分でも、思いついたときは鳥肌が立ったくらいだ。

 そこまで俺は追い詰められていた。早く人を殺したかった。生きがいを見つけたかった。

 あいつはおそらく、俺との約束を反故にするつもりだろう。そうなると、俺の計画は夢に終わる。一人で実行となると、さすがの俺でも不安要素は否めない。

 だから俺は、連続殺人計画を思いついた。

 舞台は、俺の故郷、つまり健人の地元、神南市だ。何故神南市を選んだか、理由は簡単だが、それは最後に明かそう。

 あとは誰を利用するかだが、この問題については解決するのに時間を要した。

 俺は捕まるわけにはいかない。家族には迷惑をかけたくないのだ。俺の身代わりが必要だった。全ての罪を被ってくれる身代わりが。

 そんな簡単には見つからないだろう――そう思った矢先に、丁度いいやつがいた。

 上原光――入学した直後に、告白されてなんとなく付き合い始めた女だった。

 こいつは俺に従順で、何でも言うことを聞いてくれる。世間で言う、尽くす女だ。俺は、こいつを結構気に入っていた。

 だから、利用することに決めた。

 計画を実行に移すには、長い期間が必要だった。だから俺は、夏休みを選んだ。長期休みを利用しなければ、できないからだ。日帰りなんかで、この計画が成功するはずがない。

 俺は光に、一緒に旅行でも行かないかと誘った。もちろん、光は二つ返事だった。

 しかし光は、旅行先に疑問を抱いていた。

 神南市は、そこそこの都会だが、お世辞にも観光スポットとはいえない。何故そこを旅行先に選んだのか、光は俺に言ってきた。都会とか、避暑地に行きたいなどとしつこかったので、俺はそれなりの言い訳を考え付いて、言った。

「神南市は、俺の故郷なんだよ。まだ売れていない、前住んでいた豪邸がある。そこに、泊まろうと思ってね」

 光には付き合った当初、俺の親父が大手企業の社長であることは話してあった。その話を思い出したのだろう、すぐさま光は目に輝きを取り戻して、何度も頷いた。

 女を誘導させるなんて、ちょろいもんさ。

 

 家に帰り、彼女と二人で神南市に行き、前住んでいた豪邸に何泊かしたいと、親父に言ったら、親父は喜んで鍵を渡してくれた。俺は鍵を受け取り、公衆電話から彼女の家へとかけ、彼女にオッケーだと言う旨を伝えた。彼女が安堵の息をはいたのは、電話越しからも伝わってきた。

 そして旅行当日。彼女は大きな旅行バッグを転がしながら、俺の家の前まで来た。俺の家を見て彼女は感嘆の声をあげた。

「本当に、お父さん社長なんだぁ」

「疑っていたのかよ」

 苦笑しながら俺が言った後、背後から親父が来る気配を感じた。

「準備できたぞ」

 親父は車のキーを俺たちに見せつけながら言った。俺は頷き、車庫に向かった。

「よろしくお願いします」

 彼女が緊張した声で、親父に言っていた。

「いやぁ、まさか大胡にこんな可愛い彼女が出来るなんてな」

 俺は胸のうちで舌打ちした。余計なこと言うんじゃねぇよ。

 

 車を一時間は知らせると、新幹線の通っている駅に到着し、俺は車を降りてトランクから彼女の旅行バッグを取り出した。

「何泊するんだ?」

 親父は車を降りながら訊いてきた。

「どうだろうな。べつに、金もかからないし、気が向いたら帰ってくるよ」

 あえて、俺は日にちを決めなかった。何故なら、計画に狂いが生じたとき、何日か伸びる可能性を考慮したからだった。もし何泊か決めて、それ以内に帰ってこられなかったら、親父は警察に直行するだろう。そうなると非常にまずい。

「そうか」

 とくに怪しむ様子もなく、親父は頷いて、俺たちに手を振った。

「ま、あまり羽目をはずし過ぎないように、楽しんでこいよ」

 言い終わると、車に乗ってエンジンをかけた。

 数秒後、親父の車は走り出した。 

「行こうか」

 俺の言葉に、彼女は照れ笑いを浮かべながらも頷いた。何を期待しているんだ。お前は俺に利用されているだけなんだぞ。

 喉まででかかったその言葉を何とか飲み込み、俺は彼女の前に両手合わせた。

「あ、忘れてた。ちょっと公衆電話まで行ってくる」

「どうして?」

 訝しげな表情を光が浮かべたので、俺はそれらしき言い訳を考えて言った。

「ちょっと、友達の家に電話かけてくるよ。ほら、神南市には中学の同級生が一杯いるからさ」

 光は二三度頷いた。どうやら納得してくれたようだ。

 公衆電話へと急ぎ、俺はある場所へ電話をかけた。

「もしもし……」

 誰にも聞かれていないと分かっていながら、俺は声を低めた。

「準備はいいですか?」

「大丈夫。君の計画に、抜かりはないよ。あの人にも、ちゃんと伝えたから」

 その言葉を聞いても、俺はいささか信用することが出来なかった。やはり相手が、あっち側の人間だから、信用に欠けるのだろうか。

 それでも、少しは信じている。きっと、俺を裏切らないでくれる。

 そう自分に言い聞かせ、俺は受話器をかけた。

 これで、確認は終了した。

 公衆電話を出て、俺は光のもとへ行った。

「遅いよ、新幹線出ちゃうよ」

「ああ。悪い」

 くそ、この女。調子に乗りやがって。べつにお前の代わりはいくらでもいるんだ。切り捨ててもいいんだぞ。

 胸中で悪態をつきまくり、俺たちは新幹線に乗った。

 神南市に着けば、いよいよ始まる。

 悪夢の連続殺人事件が。



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