第七章……卒業
卒業するまで、健人と俺は学校で顔を合わせても挨拶すらしない関係になっていた。
三年のクラスが別々になったのは、俺としては幸いなことだった。おそらく、健人もそう思っているはずである。
だから、健人と学校で会うことはほとんどなくなった。
たまに学校で健人を見かけると、友達数人と楽しく喋りながら歩いているのだ。どうやら、友達が出来たらしい。
つまらねぇ。
健人が楽しそうな表情を見せていると、殺気が湧いてくる。
友達が出来たことにより、國藤の苛めも少なくなったみたいだし、健人は普通に中学生活を楽しんでいるように見えた。
そんな日々が続き、いよいよ卒業式の日が来た。
とくに思い入れもないこの中学校を卒業できることは、嬉しかった。さらに、父親の都合で地方の町へ引っ越すことも、好都合だった。健人から離れることが出来る。その思いが真っ先に、俺の脳裏をよぎった。
卒業式が終わり、俺は早速そのことを報告に行こうと健人に会いに行った。
何故健人に会いに行ったのか、いまだにその疑問の答えが解消されない。おそらく、衝動的な行動だったのだろう。でなければ、健人に会いに行くことはありえないからだ。今日という日まで避けてきたのに。
「俺、引っ越すから」
健人の反応は薄かった。だから、悲しんでいるのか、それとも喜んでいるのかよく分からなかった。
「それと、これ」
俺は隠し持っていた、あのノートを健人に差し出した。
健人は、驚きの表情を隠しきれないでいた。
おそらく、引越しを伝えに来たというのは口実で、本来の目的はこのノートであったと、俺は思う。
自分のことなのに、ぜんぜん分かっていないな、俺。
「これが最後だ。お前は、あいつを殺したいと思っているか」
健人は、黙ったまま俺の顔を見つめていた。
ただ、それだけだった。
「分かった。なら、これだけは約束してくれ」
俺は願った。
この思いが、健人に届くことを。
「この殺害計画を、俺たちのどちらかが実行すると。
俺たちが大人になったら、あいつに復讐しよう。それまで、俺がこれを預かっておく」
言って、俺はノートを鞄にしまった。
俺の思いが健人に届いたかどうか、定かではないが健人は頷いた。
けど、俺はもう諦めていた。
健人に、國藤に対する殺意が消えかけていることを知っていたからだ。いや、もうすでに消えているのかもしれない。
さっきの言葉は、自分に対してだったのかもな。後になって、そのように思う。
正門のところまで、俺と健人は一緒に歩いた。一緒に歩くのは、あの放課後の出来事以来だった。
道中、お互い無言だったが正門に着いたところで、健人が口を開いた。
「じゃあな」
大したことのない言葉だった。
しかし、その一言にいろいろな思いが込められているのを、俺は感じた。
「ああ」
だから俺も、色々な思いを込めて健人に言った。
別れの言葉を交わすと、俺たちはお互い別々の道を歩みだした。