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第四章……葬られた過去

 


 健人の過去は、俺が想像していた以上に壮絶で、深い闇に覆われていた。

 健人の母親はある程度過去について話し、部屋を出ようとすると健人がそれを図ったかのように入ってきた。俺たちは一瞬ひやっとしたが、健人は何も聞いていない様子だったので、母親は平静を装いながら部屋を出て行った。

 その後俺たちは、学校の話をした(一方的にされただけだが)。だが、健人の話はもはや俺の耳に入ってくることはなく、早く家に帰ってこれからの計画を練りたいと考えていた。

 そう、この日から俺の計画が本格的に始動し始めたのだ。

 翌日、俺は健人ともっと距離を縮めるために朝待ち合わせをして、一緒に登校した。

 その時も、健人が一方的に喋るだけで、俺は聞き役として上手く立ち回っていた。

 学校での授業にもあまり身が入らず、終始上の空で、どうすれば國藤を自然に殺すことが出来るのか、そればかりを思案していた。

 そして、ようやく出た結論は――。

 健人が、もっと國藤に憎しみを抱けば、計画も上手くいくかもしれない,というものだった。

 俺は國藤が健人に暴力を振るうよう誘導した。

 健人にもっと絶望感を抱かせ、死にたいと思わせ、思考能力もなくすほどに、やつを追い詰めることが、計画を成功に導くための手段だった。

 上手くいった――あいつが、屋上のフェンスの外側に立ったとき、俺はそう思った。

 計画の成功を、確信したのだ。

 國藤を殺すことが出来る。

 その日の放課後、健人はまた國藤から暴力を受けていた。ま、俺の一言のせいでもあるんだけどな。

 健人が、後輩と揉めているらしいですよ――。

 その一言は、國藤が健人に暴力を振るうよう仕向けるのには、十分な効力を秘めていた。

 ここで、健人の過去を話す必要がある。

 小学校五年生のとき、健人は國藤が担任のクラスになった。

 國藤は当時から気性が荒く、PTAも國藤の人間性に不満の色を浮かべており、健人の母親もまた、國藤が担任になって不安だったと、当時の心境を語っていた。

 その年の九月中旬、五年生が待ちに待った行事の修学旅行がやってきた。健人は、修学旅行を楽しみにしていた。

 楽しみにしていたのに――。

 あんなことが起こるなんて――。

 修学旅行先で、健人の数少ない同じクラスの親友が首を吊って自殺したのだ。

 いまだに、原因ははっきりと分かっていないらしい。

 親友が自殺したのは、宿泊するホテルに着いてからすぐのことだった。

 バスでホテルへと向かうところだった。二人は隣同士の席で、その車内で軽い口喧嘩をしたらしい。

 ホテルにバスが着いた直後、親友は健人にこう言い放ったのだというのだ。

 死んでやる――。

 健人はその言葉を真剣に受け止めず、仲直りもしないままバスを降り、部屋が一緒の友達とホテルへ入った。

 健人は小学生の頃、プライベートで親しみのあった友達はいなかったが、学校ではうまくやっていたらしい。

 だがその反対に、親友は他のクラスの少し嫌なやつらから苛めを受けていたのだ。そのことを、健人は知らなかったという。

 そして皮肉なことに、親友はその苛めているやつらと一緒の部屋になってしまったのだ。

 親友がどうなるか、想像するに足らない。

 親友やはり、その部屋で苛めを受けていた。

 そのことも知らず、健人は親友と仲直りをしにいこうと、親友の部屋の手前まで差し掛かったとき、同じ部屋のやつらが血相を変えて出て行ったというのだった。

 何事かと、怪訝な思いで健人は部屋を覗いた。

 親友が、首を吊って自殺していたのだ。

 その光景を目にした健人の気持ちは、俺ですら痛いほど分かる。

 健人はきっと、親友が自殺したのを見て自分のせいだと、酷く責任を感じたのだろうな。

 死んでやる――。

 親友が言い放ったその言葉を、健人は脳裏で反芻していたに違いない。

 その後、國藤と他のクラスの先生たちが駆けつけた。先生たちが駆けつけるまで、健人は親友が首を吊っている光景を、呆然と立ち尽くして見ていたらしい。

 どういうことだ――。

 どうして死んでいる――。

 先生たちは口々に、健人に問うたが、何も知るはずがないのだ。

 ベッドの上に、親友が書いたと思われる遺書が置いてあった。

 ごめんなさい、死にます――。

 それだけが、書いてあったのだ。

 俺は、親友が自殺した原因は同じ部屋の、苛めていたやつらだと思う。

 けど、あいつらは健人のせいにした。

 俺たち、バスの中であいつらが喧嘩しているところをみました。そして、あいつが死んでやるって言うのも聞きました――。

 証拠がないため、警察はその話を聞き入れなかったという。

 しかし健人は、親友が自殺したのを自分のせいだと深く責め、入院してしまったのだ。

 保護者たちは、國藤を責めた。

 國藤の普段の振る舞いが原因なのではないかと、責任を激しく追及したという。健人の母親も、わが子に疑いの目が向けられないよう、必死に抗議をした。

 苛めグループは健人のせいにし、保護者は國藤のせいにし、健人は自分のせいだと、責任を感じた。

 なら國藤は、誰のせいにする――?

 保護者から必死の抗議があって、國藤は別の小学校へ移るよう命じられた。健人は、冬休み明けまで、入院生活をしていたらしい。

 その入院生活で、ある奇怪な出来事が起こった。

 健人は、修学旅行で起きた事件の記憶をなくしていたのだ。

 その部分だけ、きれいに欠落していた。

 親友の存在を忘れ、國藤の存在も忘れていた。

 修学旅行の記憶を、都合よく忘れていた。

 そんなことがあってもいいのか――。

 だが、その記憶を失ったからこそ、今の健人があると考えられる。

 そう信じている――。



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