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エピローグ……マーダープラン

 断崖絶壁のところに、やつは立っていた。

 俺は、やつに会うためにわざわざ二日かけて北海道まで足を運んだ。北海度へ行ったのって、もう何十年も前だ。まさか、北海道へくるのが観光じゃなくてやつに会いに行くためなんてな。そう思うと、虚しさがこみ上げてくる。

「よう」

 風で、俺の声は完全にかき消されていたはずだが、やつの耳には届いていたようだ。

「その声……」

「お前の住んでいる家を訪ねたら、ここへ来ているって聞いたから。北海道に移り住んでから、毎日ここで風を浴びているんだってな。全部、お前の奥さんから聞いたよ」

「由香のやつ……口が軽いのが、たまに傷だ」

「そのせいで、あの時、お前の計画に誤算が生じた。そうだろう? もう二十年も昔の話だけどな」

 ここで、大胡はようやく俺のほうへ振り返った。白髪混じりの髪と、顔にしわが浮きでていた。モテモテだったあの頃の面影は、もはやない。

「でもまあ、よく由香ちゃんと結婚する気になったよな」

「何がだ?」

「二十年前のあの夜、覚えているか? お前に呼び出されて、あの公園へ行ったあの夜だ」

「ああ」

 大胡は空を仰いで、しばらくしてから言った。老けて、記憶力も危なくなったな。

「由香ちゃんのせいで、お前の計画に誤算が生じた。俺に、事件の真相を語ったからだ。聞かされたときは驚いたよ。由香ちゃんは、お前と秘密を共有したくてあんな嘘をついた。お前を愛している故にだ」

「結果、俺はあの殺害計画を実行してしまった。今思えば、愚かだったよ」

 大胡は、自虐的に言った。

「しかしそれは、事件の九割にしかすぎなかった。もう一つの真相が分かったから、俺に会いにきたのだろう」

「さすが大胡だな。何でもお見通しだ」

 心にもないことを言い、俺は大胡の言っていたもう一つの真相を語った。

「お前に、発想を変えてみろ、って言われたとき正直わけが分からなかった。けど、考えていくうちに、ようやく答えを導き出すことが出来たよ。

俺は、誘拐犯との取引が行われるあの公園にお前が来たのは、俺に飛び出させて刑事を辞めさせるためだと思っていた。だが、お前が由香ちゃんをあの公園へ呼び出したわけじゃなかったんだよな。由香ちゃんが、お前を呼び出した。そのことについては、まったく違和感はなかったが、ある日この発想を変えてみようと思ったんだよ。そしたら、もう一つの真相が何なのか分かったんだ。

由香ちゃんは、俺が大胡のことを怪しんでいると察知し、友人にある頼みごとをした。子供を誘拐して、両親に身代金を要求しろ、ってね。

 友人はそれを引き受け、由香ちゃんに言われたと通り子供を誘拐し、あの公園に親を呼び出した。身代金の受け渡しを行うためだ。

 公園も時間も、もちろん由香ちゃんが指定した。全ての目的は、俺をクビにするためだ。

 由香ちゃんは、自分と大胡が会っているところを俺が目撃したら、勘違いするのではないかと、考えていた。だから、このような計画を思いついた。

 そして俺は、まんまと由香ちゃんの罠にはまり、飛び出していった。由香ちゃんから詳しい事情を聞かされていなかった友人は、慌てて逃げ出したってわけ。

 由香ちゃんの計画に、後になって気づいたお前は、俺の謹慎が解けて警視庁に出勤してきたと同時に、神南中学に爆弾を仕掛けたと、警視庁のセキュリティシステムを乗っ取って、スピーカーを使い言ってきた。

 俺が屋上へ駆けつけたとき、お前が由香ちゃんを捕まえていたのは、誘拐の計画について自白させるためだろ? 由香ちゃんは、娘がどこに誘拐されたのかを自白した。その場所を書いた紙を、お前はあの夜、俺に渡してくれた。おかげで、無事子供は確保されたよ。俺は結局クビになったけどな」

 大胡は無言で、俺の話しに耳を傾けていてくれた。俺は、続けた。

「けど、一つ気になっていることがあった。それは、何故由香ちゃんはわざわざ大胡にとって不利になる証言をしたのか。矛盾していないか。だって、大胡のことを守るために陳腐ながら、この計画を思いついた。それなのに、俺に事件の真相を語った理由は、一体なんだ、って」

 大胡は目を瞑り、青空を仰いだ。

「それは、由香の衝動的な言動にしかすぎない」

「え?」

「俺があの時、すぐに公園を去ったから見捨てられたと思ったらしい。だから、お前がカフェに誘った時、オッケーをしたそうだ。最初は話すつもりなんてなかったらしいが、気が変わって、真相を語ったみたいだぜ。由香はその後で、俺に謝りの電話を入れてくれたよ」

 だから大胡は、由香ちゃんが俺に真相を語ったことを知っていたのか。

 これで、片方の真相は完璧に解かれた。もう片方は……。

「刑事クビになって、俺はずっと考えていた。お前が言っていた情報、ってなんだったのかをね。分かったよ。お前が言いたかったことが。

 やはり、最初に思いついたとおり情報とは、警視庁の情報課のことだったんだ。お前と田口さんはなんらかの形で繋がっていたんだ。だから、俺が逃走した殺人犯を撃てなかったことを知っていた。

 さらにもう一つ。俺は、田口さんに國藤の背中に乗っていた写真を見せて、お前を探し出してもらおうと考えた。すると、すぐにお前の居場所を特定できた。さすが情報のスペシャリスト、って思ったね。まあ、一般人から情報を収集しているだけなんだけどな。

 ともかく、あの時はべつに気に留めることもなかったが、今思えばかなり出来すぎた展開だった、って思うんだ。だって、早すぎたんだぜ。お前の情報が届いたの。偶然その時、大胡の知り合いが田口さんの立てた掲示板を見ていたのか? べつに可能性としてなくはないが、俺にはあまり想像がつかない。つまり、あの情報はお前に頼まれて田口さんが事前に用意していたものだったんだよ。そのことが、お前と田口さんが繋がっていると思わせる決め手となった」

 一通り語り終え、俺は深く息を吐いた。精神を落ち着かせるためだ。

「何らかの形、って言っていたが、それが何なのか、想像つくか?」

「え?」

 大胡は俺のほうへ顔を向け、言った。大胡の目には、もはや生気など込められていなかった。

「教えろよ」

 大胡はまだ、俺に何か隠している。それが何なのか、俺は無性に知りたくなった。

「答えは言わないよ。今までやってきたみたいに、自分で答えを導き出すんだ」

 もはや反論する気にもなれなかった。こう返答してくることは、容易に想像することが出来たからだ。俺はため息をついて、言った。 

「もう一つ訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 俺は人差し指を立てて、うつろな表情をしている大胡に言った。

「花風、っていう苗字に変えたのは、平穏に暮らすためか?」

 大胡は穏やかな笑みを浮かべた。つられて、俺も笑みを浮かべてしまった。

「そうか。平穏に暮らしたいのか」

 独り言のように言って、俺は右手をポケットに移動させた。

「けど、悪いな。そういうわけにはいかないんだ」

 言って、俺はポケットに入れていた拳銃に手をかけ、一気に引き抜いて大胡のほうへ向けた。

「あの日の拳銃だよ。この拳銃だけは、大事に保管しているんだ」

 大胡に拳銃を向けても、あの日のように手は震えなかった。

「俺はずっと後悔していた。お前を撃たなかったことに。お前を、みすみす逃してしまったことに。お前が指名手配犯になって、懸賞金がかけられたとき、ますます罪悪感が募ったよ。あの後、殺害計画が書かれたノートが、お前の住んでいたマンションで見つかったんだ。正直、発見された時は驚いたよ。だって、お前のことだから発見されないように焼却したとか思っていたからさ。けど、お前は何もしなかった。何故だ?」

 大胡は無言のまま、向けられている拳銃に視線を注いでいた。

「答える気はないか」

 照準を大胡の胸に合わせながら、俺は言った。

「お前に、俺を撃つことができるのか?」

 穏やかな表情を浮かべたまま、大胡は言った。大胡は、人生に絶望した人間のめをしていた。こいつの心はもう、死んでいるのかもしれない。

 そう思うと、決心を強めることが出来た。

「あの日の俺じゃないんだ」

 引き金を引く指に力を込めて、俺は言った。

「覚えているか? 神南中学の三階が爆発して、火の海に包まれているっていうのに、お前は俺にこう質問したよな。

 もしお前が刑事をやっていなかったら俺をどう裁く、って。

 その答えを、俺は見つかったあのノートに書き記したよ

これが俺の、マーダープランだ」

 静かに言って、俺は引き金を引いた。

 銃声が響き、大胡は血飛沫を上げ吹っ飛び、海に落ちていった。

 これでようやく、俺たちは呪縛から解き放たれたんだ。

 俺は振り返り、これからのことを考えながら、当てもなくゆっくりと歩き始めた。



 いかがでしたでしょうか、マーダープラン。

 実はまだ、この物語には多くの謎が存在しているのです。大胡と情報課の田口は、一体どのような関係なのか。そして、物語では触れられていないんですけど、健人がいきなり本庁の捜査一課に配属された理由、ですね。何故健人は、お荷物的存在なのに、今まで飛ばされなかったのか。その理由は、ちゃんとあるんです。全ての答えは、十四年前に健人の地元で起きた、無差別殺人にありました。その事件、なんとあの大胡も関わっていたのです。

 そのお話は、いつかやろうと考えてはいるのですが、なかなか始められなくて。この作品が好評であれば、始めたいと思っています。

 皆様は、いかがでしたでしょうか。面白いと思ってくれた方は、少ないのではないでしょうか(自分で言うのもあれなんですけど)。

 それでも、感想をいただければ幸いです。気軽に、評価していってください。

 最後に、これまで読んでくださった方々にお礼を申し上げたいと思います。

 この小説を読んでくださって、誠にありがとうございます。アクセス解析を見て、ユニークが増えているのを見ると、幸せな気分になります。本当に、感謝をしています。

 本当に、ありがとうございました!!


 すいません。少し、付け加えさせてください。

 実は僕、今この大胡編を書き始めたのです。そこでは、大胡の生い立ちを探ります。

 今序章を予約中で、十一月に公表するつもりです。

 ぜひこれを読み終えたら、そちらも読んでみてください。お願いします。

 あと、感想をくれると、非常に大胡編を書きやすいです。

 わがまま言ってすいません。よろしくお願いします!!

 

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