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第二十二章……真意



 三階に続く階段の踊り場に差し掛かったところで、大きな爆音とともに校舎全体が激しく揺れた。とうとう爆発が起きたのだ。幸い、遠いところで爆発が起きたみたいだったから、俺たちに直接的な被害はなかった。

「気をつけろよ。爆弾は全部で五つある。一つの爆弾が爆発すれば、時間差でもう一つの爆弾も爆発する仕組みだ。いずれ、ここも爆発する」

 その言葉を聞き、俺は階段を一段飛ばしで駆け下りた。

「早くしろよ、大胡」

 俺たちのいるところは、まだ爆発は起きていない。上手くいけば、脱出することができる。

「そんなに急ぐなよ」

 絶体絶命の状況に陥っても、大胡は急ぐ様子も見せず、表情もどこか涼しげだった。

「どうしてお前は、そんな冷静でいられるんだ」

 文句をつけている暇などないのだが、思わず口から出てしまった。

「いや、べつに」

 俺はどうも不審に思った。何故なら、大胡から生きようという姿勢がどうしても伝わってこないのだ。俺の言葉に、心を入れ替えたと思っていたが、どうやらそれは単なる俺の願望だったようだ。

「早くしろよ」

 いつ爆発するかも分からないところで、立ち往生している暇なんてない。しかし大胡は、まだ階段を下りている最中だった。三階で、俺は優雅に階段を下りている大胡を見上げていた。

「いい加減にしろよ!」

 俺は、急ごうとしない大胡に怒鳴った。

「死にたいのか?」

「いや」

 迷うことなく否定した大胡だが、やはり駆け下りることはなかった。

 もうさすがに我慢の限界だ。俺は階段を上り、大胡の腕を引っ張って駆け下りた。

「何すんだよ」

 三階に辿り着いた直後、大胡は腕に掴まれている俺の手を振り払い、反抗的な目を向けて言った。

「俺がどう降りようが、自由だろう」

「そんなわけにはいかないんだよ。この状況がいかにまずいか、分かっているのか?」

「言われなくても、ちゃんと分かっているよ」

 大胡の、笑いを含んだ口調が俺の怒りに火をつけた。

「何がおかしいんだよ」

 胸倉を掴み、俺は大胡に詰め寄った。

 俺はおかしくないはず。今の状況で、冷静でいられるほうがおかしいのだ。

「分かったから、離せよ」

 なだめるように大胡は言い、軽く頭を下げた。

「悪いな、健人。べつにお前を怒らすつもりはなかったんだ」

「ま、まあ、わかりゃあいいんだけどな」

 素直に謝れると、正直照れる。

 俺は大胡の胸倉から手を離し、腕時計に目をやった。

 最初に起きた爆発から、もうすでに五分が経過している。大胡は、この学校に爆弾が五つ仕掛けられているといい、最初の爆発が起きてから時間差で次々と爆発していくと言った。次の爆発が起きるのは、あと何分だ。

「おい、急ごうぜ。もう時間がないかもしれない」

 俺は階段を下りるよう、催促した。だが、大胡は首を横にふった。

「大丈夫だ」

「え?」

「なあ、一つ聞いてもいいか?」

 穏やかな口調で、大胡は言った。

「もしお前が刑事をやっていなかったとしたら、國藤を殺した俺をどう裁く?」

 大胡が言い終えた刹那、俺たちのいる三階の教室が爆発し、三階はあっという間に火の海に包まれた。

「くそ!」

 両手で顔を覆い、俺は二階の階段を下りていこうとした。しかし、大胡に肩を掴まれてしまった。

「なあ、どうする」

 俺たちのいる階が爆発したというのに、大胡の口調に変化はなかった。

「知るかよ!」

 肩に置かれた手を振り払おうとしたら、体勢を崩して踊り場まで頭から落ちてしまった。

 強い衝撃が、脳に伝わってきた。

 なんでこうなっちまうんだよ……。

 ここで、俺の人生は終わってしまうのか。

 薄れ行く意識の中、今までの思い出が走馬灯となって頭の中を駆け巡っていた。

 振り返ってみて、改めて思った。この三十年間、たいした思い出なんて何一つないや。本当、ろくでもない人生だった。

 せめて、あいつを逮捕してから死にたかった。タイミング悪すぎるよ。

 もう少しだったんだ。もう少しで、全ての決着がつくはずだった。

 けど、あいつはどのような意図があって俺にあんな質問をしたのだろうか。

 未練を多く残したまま、俺の意識は遂に途絶えてしまった。



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