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第十三章……捜査令状



 二日後、俺たちは神南中学の校長室にいた。時刻は、午後の四時を示していた。

「ささ、どうぞお座りください」

 校長先生に促され、俺と係長は来客用の高級そうなソファーに座った。校長先生は、向かい側のソファーに腰掛けた。

「もうじき、黒総先生がいらっしゃると思いますので」

 校長先生は、額から流れ落ちてくる汗をハンカチで懸命に拭いながら言った。その光景を見て、俺は同情した。校長たるもの、学校の評判は落としたくないよな。

 俺は今、すごい反省をしていた。でっちあげの捜査令状で、大胡の家に乗り込もうとしているのだから。

 けど、今更そんなことを言っても後戻りはできない。俺は必ず、ノートを見つけてみせる。

「お、来たのかな」

 ドアをノックする音が聞こえた途端、俺の鼓動は一段と早くなった。

「失礼します」

 ゆっくりとドアを開けて、大胡が入ってきた。

 ここまできて言うのもあれなのだが、俺には一つの不安があった。

 大胡が、この捜査令状をでっち上げられたものだと見破るのではないかと。

 あの大胡だぞ。一筋縄ではいかないはずだ。俺たちが発行したこの捜査令状は、あくまででっち上げだ。大胡であれば、その頭脳で容易に言い逃れることが出来るかもしれない。

 俺はあえて、係長には大胡の人物像を話さなかった。先入観を持たせたくなかったのが、理由の一つだ。

「ここに座ってください、黒総先生」

 校長は立ち上がって、自分の座っていたソファーに大胡を座らせた。

「どうも。東京都警視庁刑事部捜査一課三係係長の、西島です」

 名詞を取り出して、係長は大胡に渡した。大胡は、受け取った名刺をしばらく見つめた後に、係長に顔を向けた。

「刑事の方が僕に用事って、一体なんですかね」

 大胡は、穏やかな笑みを浮かべながら言った。

「じつは、あなたに捜査令状が出ています」

 言って、係長がスーツの内ポケットから折りたたまれた捜査令状を取り出した。

「黒総大胡さん。あなたに、銃刀法違反の容疑がかけられています。家宅捜索をさせていただきます」

 目の前の机に、捜査令状を広げて置いた。

 銃刀法を取り締まるのは、本来捜査一課の仕事ではない。しかし、それしか大胡の家の捜査令状を発行する口実が見当たらなかったのだ。係長であったからこそ、発行できたのだ。

 果たして大胡は、このでっち上げた捜査令状に対しどう出るのか。

「そうですか」

 とくに、出された捜査令状を怪しむ様子もなく、大胡は言った。どういうことだ。銃刀法違反の容疑を認めるということか。

 俺は、表情一つ変えずに座っている大胡を見た。その際、大胡と目があった。

 何かを企んでいるような、そんな目をしていた。

 嫌な予感がした。俺たちがはめているのに、まるではめられているという、不思議な感覚に陥った。

 今すぐ捜査令状を撤回して、帰るか。けど、そんなことしたら完全に相手の思う壺じゃないか。

「分かりました。ならすぐ、僕の家に行きましょう。どうぞ、好きなだけ調べてください」

 そう言うと、大胡は立ち上がった。係長は、作戦が上手くいってご満悦のようだったが、俺はどこか腑に落ちなかった。

 大胡が、こんなにあっさり罪を認めるなんて、どう考えてもおかしすぎる。あいつが一番分かっているはずだ。この捜査令状は、でっち上げだって。

 なのに、何故容疑を認めるのだ。大胡は、一体何を企んでいる。

「そんなに怖い顔して、どうしたんだよ、健人」

 俺は大胡を見上げた。大胡は、先ほどと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべたままだった。その笑みにも、何かが隠されている気がしてならない。

「二人は、中学時代の親友でいらしたのよね」

 係長のおかま口調が、ついに出てしまった。初めて聞いた校長と、そばに立っていた教頭は若干動揺していたが、大胡は笑みを崩さず答えた。

「ええ、そうですよ」

 係長は、同業者以外には滅多におかま口調を使わない。警戒心を生ませないためだと、俺は考えている。ということはつまり、大胡に心を許したということだ。これから家宅捜索だというのに、大丈夫かな。

「よろしくお願いします、西島係長」

 言って、大胡は係長に握手を求めた。係長もそれに応え、立ち上がって握手をした。俺はその光景を、黙って見つめていた。

「それじゃあ、行きましょうか」

 大胡はそう言うと、校長室を先に出て行った。

 係長は俺のほうへ向いて満足げに微笑み、校長室を出た。

 やれやれ、大胡のやつ早くも係長を虜にしやがって。べつに嫉妬をしているわけではないが、いい気分はしなかった。

 くそ。こんなんじゃ駄目だ。とにかく、ノートを見つけなければ。

 俺も立ち上がって、踵を返し校長室を去った。



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