第二章 失われた文明編 第73話 守る者たち
前書き
世界は、
英雄だけでは守れません。
橋を支える者。
傷を縫う者。
車を走らせる者。
泣く子を抱く者。
その全員が、
誰かの英雄でした。
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研究都市西地区。
避難橋。
長さ三百メートル。
都市外へ通じる最後の橋。
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ゴゴゴゴ……
巨大な橋桁が軋む。
空から降り続ける瓦礫。
侵食粒子。
そして逃げ惑う数千人の避難民。
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橋の中央で、
E-06が両腕を橋桁へ押し当てていた。
肩部シリンダーが悲鳴を上げる。
【負荷率】
91%
94%
97%
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「まだ……だ。」
巨大な脚が地面へ沈む。
橋が崩れれば、
一万人近い避難民が谷底へ落ちる。
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橋の上では警察部隊が叫ぶ。
「走れ!」
「振り返るな!」
「子どもを優先しろ!」
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その中には若い女性警察官がいた。
まだ二十二歳。
配属一年目。
名を、
リシア・ノエルという。
泣き叫ぶ兄妹の前へしゃがみ込む。
「大丈夫。」
「お姉さんが一緒に行く。」
兄は首を振る。
「妹が歩けない……。」
リシアは迷わなかった。
少女を背負う。
「じゃあ二人とも連れて行く。」
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一方、
救護所ではエルヴィンが怒鳴っていた。
「次!」
「骨折!」
「輸血開始!」
看護師マリアは疲労で手が震えていた。
それでも止まらない。
目の前には次々と負傷者が運ばれてくる。
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その時。
一人の老人が運ばれてきた。
「先生……。」
「私はいい。」
「孫を先に。」
エルヴィンは首を横へ振る。
「全員助けます。」
「諦めないでください。」
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研究所では、
イリーナが工具を投げるように整備班へ指示を飛ばしていた。
「E-03の右腕!」
「予備フレーム!」
「急いで!」
若い整備士が答える。
「ありません!」
「在庫切れです!」
イリーナは一瞬だけ黙る。
「……じゃあ。」
「私の試作品を使う。」
アルベルトが驚く。
「あれは未完成じゃ!」
「完成してなくても!」
「腕が無いよりマシです!」
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格納庫の奥では、
十代の見習い整備士が震えながら部品を抱えていた。
少年の名は
レン・クロイス。
まだ十七歳。
工具を持って半年しか経っていない。
「ぼ、僕が……。」
イリーナが肩を叩く。
「レン。」
「今は失敗してもいい。」
「止まるな。」
少年は深く頷いた。
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戦場。
E-03は片腕だけで侵食体を切り裂いていた。
装甲は傷だらけ。
だが笑う。
「片腕でも十分だ!」
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E-02が通信する。
「右三時方向!」
E-03が跳ぶ。
その一瞬前。
巨大な瓦礫が落下した。
「助かった!」
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E-04は街全体の通信を維持していた。
都市中へ避難経路を送る。
『北ルート封鎖。』
『南第五橋使用可能。』
『病院避難完了率六十五%。』
誰も彼女の姿を見ていない。
しかし。
その通信が何万人もの命を救っていた。
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E-05は侵食解析を続けていた。
【侵食進行】
毎分0.8%
「……速い。」
初めて焦りが混じる。
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その頃。
ノアは黒き巨人の目前まで到達していた。
巨人は攻撃しない。
ただ。
赤い瞳でノアを見る。
「……七番目。」
「苦しい。」
ノアは静かに答えた。
「……助ける。」
その言葉に、
巨人の身体が大きく震える。
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研究所。
セレナが立ち上がる。
「今の!」
「録音!」
アルベルトは画面を見つめたまま呟く。
「ノアは……。」
「敵とも会話しておる。」
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その時だった。
都市全域に、
今まで聞いたことのない警報が鳴り響く。
ピーーーーッ!!
全員が顔を上げる。
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【警告】
【侵食指数】
20%突破
【第二段階】
【開始】
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黒い霧が、
まるで生き物のように街中を走り始めた。
道路を。
建物を。
人々の足元を。
飲み込みながら。
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そして。
銀髪の人物は静かに空を見上げた。
「……もう遅い。」
「第一の門が開く。」
その言葉と同時に、
遠く離れた都市中心部から、
巨大な黒い柱が天へ向かって立ち上った。
雲を貫き、
空を裂き、
まるで世界そのものに穴を開けるように。
戦場の誰もが、その光景に言葉を失った。
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後書き
今回は「戦う者」だけではなく、「支える者」を描きました。
新たに登場した
* リシア・ノエル(新人警察官)
* レン・クロイス(見習い整備士)
は、この文明が軍人だけで成り立っていたわけではないことを象徴する人物たちです。
また、今回のラストで**侵食指数20%**という新たな段階に入り、「第一の門」という不穏な言葉も登場しました。
ここからは怪物との戦いだけではなく、「侵食とは何なのか」という世界の根幹へ踏み込んでいきます。そして、ノアが「七番目」と呼ばれる本当の意味も、少しずつ輪郭を現し始めます。




