表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REMNANT ― 廃棄予定の旧式兵器は、異世界で家族を得て心を覚える ―  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/35

第三十三話 人のかたち



【前書き】


 本話は、ノアという存在を“外から見たときどう見えるのか”を描く回です。


 これまで読者はノアの内側――思考や記録、言葉の獲得を中心に見てきました。

 しかし、他者から見たノアはまったく違う存在です。


 人に見える。

 だが人ではない。


 その違和感を、はっきりと描写します。


 また同時に、“それでも一緒にいる理由”も描かれます。







 朝の空気は、湿っていた。


 森から戻った翌日。


 村の中は表面上はいつも通りだったが、その下に張りつくような緊張が残っている。


 森に“何かがいる”。


 それを知ってしまった空気。



 納屋の前。


 ノアは、静かに立っていた。


 いつもと同じ場所。

 同じ姿勢。

 だが、見ているものは少し違う。


 自分の腕。


 関節の継ぎ目。

 細いひびのような線。

 その奥に、わずかに覗く青白い光。



【自己観察:継続】



 昨日、森で触れた“壊れた個体”。


 あれも同じように、内部に光を持っていた。


 だが、あれは崩れていた。


 形を保てていなかった。


 動きも、止まれなかった。



 ノアは、自分の指をゆっくり動かす。


 握る。

 開く。

 止める。



【制御:正常】



 止まれる。


 それが違いだった。



「ノア」



 声。


 振り返る。


 ピップがいた。



 ハーフリングの少年は、少し離れた位置で立ち止まっている。


 近づきすぎない距離。


 だが、逃げる距離でもない。



「……ノア」


 ノアは応じる。



 ピップは少しだけ迷ってから、言った。


「ちょっと、いいか」



「……いい」



 ピップはゆっくり近づいてくる。


 一歩。


 また一歩。


 その動きは慎重だった。


 森で初めて出会ったときの警戒とは違う。


 だが、完全な安心でもない。



「昨日のやつ」



「……森」



「そう、それ」


 ピップは腕を組む。


「やっぱ変だったよな」



【対象:共有認識】



「……壊れている」


「壊れてる、か……」


 ピップは少し考え込む。


「魔物ってさ、ああいう感じじゃないんだよ」



【情報:外部】



「ゴブリンはもっと…こう、ちゃんと動くし」


「……ちゃんと」


「うん。嫌な感じだけど、“生きてる”動きなんだよ」



 生きている。


 その語彙は、まだ完全ではない。


 だが、ノアの中で何かと繋がる。


 リリ。

 エルナ。

 ガルド。


 動きに迷いがある。

 止まる。

 選ぶ。



 昨日の個体は違った。


 選んでいない。


 ただ、動いていた。



「……違う」


「だろ?」


 ピップは頷く。


 そして、少しだけ視線をずらした。


「それでさ」



 一拍。



「お前のことなんだけど」



 ノアは黙って聞く。



「前から思ってたけど」


 ピップは言葉を選ぶように続ける。


「お前も、ちょっと似てるよな」



【評価:一致部分あり】



 ノアは否定しない。


 できない。



「……似ている」


「でも」


 ピップは顔を上げる。


「全然違う」



【評価:差異】



「どこが違う」


 ノアが問う。



 ピップは少しだけ笑った。


「それ、聞くか」



 そして、一歩近づく。


 今度は、ほとんど躊躇がなかった。



「ちゃんと見ていいか」



「……見る」



 ピップは、ノアの前に立つ。


 目線を合わせる。


 そして、じっと観察する。



 顔。


 肌。


 目。


 首元。


 腕。


 手。



 近くで見るほど、違和感が増していく。


 肌は人間のように見えるが、質感が違う。


 乾いている。


 柔らかさの中に、硬さがある。


 関節には、わずかな段差。


 人間にはない構造。



「……やっぱ変だな」



 率直な感想。


 だが、声に拒絶はない。



 ピップは手を伸ばす。


 途中で止める。


 少し迷う。



「触っていいか」



「……いい」



 そっと触れる。


 腕。



【接触:発生】



 冷たい。


 だが、氷のようではない。


 わずかに熱がある。


 内部から。



 ピップは驚いたように目を細める。


「冷たいけど……完全に冷たくないな」



【外部評価:中間】



 指先で、継ぎ目に触れる。


 わずかな段差。


 人ではない証拠。



「ここ、なんだこれ」


「……つなぎ目」


「つなぎ目か……」


 ピップは小さく息を吐く。



 そして、少しだけ強く触れる。


 内部の光が、わずかに揺れる。



【機導炉:微反応】



「……光ってる」



 ピップは手を離す。


 少しだけ後ろに下がる。



「やっぱ、人じゃないな」



 その言葉は、事実だった。


 否定ではない。


 確認。



「……人ではない」


 ノアも言う。



 短い沈黙。



 ピップは頭をかく。


「でもさ」



 一拍。



「昨日のやつより、ずっとマシだ」



【評価:比較】



「……マシ」


「うん」


 ピップは頷く。


「ちゃんと止まるし」


「……止まる」


「話もするし」


「……話す」


「あと」


 少しだけ笑う。


「変なこと言うし」



【評価:不明】



 ノアは少しだけ首を傾げる。



「それでいいと思う」



 ピップはそう言った。



「完全に分かるやつより、そっちの方が信用できる」



 ノアは処理する。


 完全に分かる。

 分からない部分がある。

 信用。



【語彙:信用】

【意味:未定義】



「……信用」


「難しいか」


「……難しい」



 ピップは笑った。


「いいよ、別に」



 そして、少しだけ真面目な顔になる。



「でもさ」



「お前、あれ止めたろ」



「……止めた」



「俺じゃ無理だった」



 その言葉は軽くない。



「だから」



 一拍。



「一緒に行くなら、お前の方がいい」



【関係:協力】



 ノアはその言葉を記録する。



 一緒に行く。



【行動候補:同行】



 森。


 壊れた存在。


 止める必要。


 読める存在。



 それらが繋がる。



「……行く」



 ノアは言った。



 ピップは少しだけ驚いた顔をした。


「即答かよ」



「……必要」



 その答えは短かった。


 だが、迷いはなかった。



 ピップは肩をすくめる。


「まぁ、いいけどさ」



 そして、納屋の外を見る。



 森の方角。



「でも、あれ」



「一個じゃない気がするんだよな」



【脅威:複数】



 ノアも同じ予測をしていた。



「……複数」


「だろ?」



 ピップは小さく息を吐く。



「面倒なことになりそうだな」



 その言葉は、軽く言ったものだった。


 だが、その中には確かな不安があった。



 ノアは森を見る。



 昨日の影。


 今日の気配。


 そして、これから増える可能性。



 壊れたものは、止まれない。



 ならば。



「……止める」



 ノアは小さく言った。



 ピップはその横顔を見て、少しだけ笑った。



「頼りにしてる」



【関係:変化】



 その言葉で、ノアの内部にわずかな変化が生まれる。



 リリとは違う。

 エルナとも違う。

 ガルドとも違う。



 外の世界の声。



 それでも。



【未知信号:安定】



 ノアは、もう一度自分の手を見る。



 人ではない形。


 だが、触れられる形。



 止められる形。



 守れる形。



 そして。



 誰かと一緒に動くための形。



「……ノア」



 自分の名前を、もう一度確認する。



 それは、与えられたものだった。


 だが、今は少しだけ違う。



 使う名前になり始めていた。



 森の奥で、また何かが動いていた。



 音は小さい。


 だが、確かに増えている。



【脅威:拡大】



 ノアはそれを聞きながら、静かに立っていた。



 次に進むための理由は、すでに揃い始めていた。







【後書き】


 今回は「ノアの外見」を他者視点でしっかり描写しました。


 ポイントは↓


* 人に見えるが違う

* 触れることはできる

* しかし完全には理解できない


 そして重要なのは、


→ それでも一緒にいる理由が生まれていること


 ピップの存在によって、


* ノア=怖いだけの存在ではない

* ノア=使える存在でもない


→ “共に動く存在”へ一段進みました


 次は、


* 森の異常の拡大

* 壊れた個体の増加

* 村 or 外へ進む決断


 このあたりが一気に動いていきます。


 かなり熱くなっていくゾーンです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ