表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REMNANT ― 廃棄予定の旧式兵器は、異世界で家族を得て心を覚える ―  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/35

第三話 接触

■ 前書き


 第3話をお読みいただきありがとうございます。


 本話では、異世界に落ちた主人公と、リリたち家族が初めて接触します。


 まだ言葉も通じず、互いの正体も分からない状態ですが、

 ほんのわずかな変化が生まれ始めます。


 この物語は、少しずつ関係が積み重なっていく構成になっています。


 大きな出来事はまだ起きませんが、

 ここがすべての始まりになります。


 ゆっくりと見守っていただければ嬉しいです。




 手が、伸びる。


 あと数センチ。


 その距離が、リマナントの内部処理を停止させていた。


【対象:非武装個体(小)】

【脅威:低】

【行動:未定義】


 少女の指先が、空気をかすかに揺らす。

 その動きは遅く、警戒の色もあるが、恐怖で硬直しているわけではない。


 ――触れようとしている。


 意味は不明。


 意図も不明。


 だが、攻撃ではない。


【行動分類:非攻撃】

【対処:未定】


 停止。


 処理が、進まない。



「リリ、下がれ」


 低い声。


 男性――ガルドが一歩前に出る。槍の穂先が、わずかに上がる。


【対象:武装個体】

【脅威:中】

【対処:排除推奨】


 即応可能。


 距離は近い。初動で制圧できる。


 だが――


【実行:未定義】



「待って」


 女性――エルナの声が重なる。


 静かだが、確かな制止。


「まだ何もしていないわね」


 その言葉に、ガルドの動きがほんの一瞬だけ止まる。


 完全ではない。だが、迷いが入る。


 その“間”が、リマナントの内部にも影響を与えていた。


【未知信号:増幅】

【分類:不可】



 少女は、なおも前へ出る。


 ガルドの腕をすり抜けるように。


「だいじょうぶ?」


 短い言葉。


【音声解析:継続】

【意味:推定】


 だいじょうぶ。


 肯定か、確認か。


 処理不能。


 だが、内部ログに保存される。



 少女の手が、ついに触れた。


 金属外殻。


 冷たい表面。


 その上に乗る、小さな手。



【接触:発生】



 その瞬間。


 ノイズが爆発する。



【未知信号:急増】

【強度:高】

【分類:不可】

【処理:――】



 映像が流れ込む。


 断片。


 光。


 色。


 意味不明な情報。



 笑っている顔。

 暖かい何か。

 呼ばれる声。



【記憶断片:取得】

【解析:失敗】



 処理が追いつかない。


 だが、停止しない。


 リマナントは、そのまま動かない。



「つめたい」


 少女が言う。


 手を引かない。


「でも、いたくないね」


【音声解析:更新】

【感情推定:――】


 不明。


 だが、ノイズは消えない。



 ガルドが一歩、踏み出す。


「リリ!」


 声が強くなる。


 だがエルナが手を伸ばし、軽く止める。


「……少し、見てもいいかしら」


 視線はリマナントに向けられている。


 観察している。


 恐れてはいるが、拒絶していない。



「動かないのね」


 エルナが言う。


 その声は、どこか確かめるようだった。


「攻撃もしないわね」


 ガルドは答えない。


 槍を構えたまま、目だけがリマナントを追っている。



【状況:静止】

【対象:三】

【関係:未定義】



 少女――リリが、顔を少しだけ傾けた。


 リマナントの目を覗き込む。


「ねえ」


 呼びかけ。


【音声解析:継続】


「なんで、うごかないの?」



 答えは、ない。


 出力できる言語がない。


 処理できる意味がない。



【応答:不可】



 沈黙。


 だが、それは“何もない沈黙”ではなかった。


 内部では、ノイズが渦巻いている。



【未知信号:持続】

【処理:未定義】



「しゃべれないの?」


 リリが続ける。


 その声は、怖がるより先に“理解しようとしている”響きだった。



 リマナントの内部で、別のログが立ち上がる。



【音声出力機能:確認】

【状態:使用可能】

【語彙データ:未登録】



 出力可能。


 だが、何を出力するかが定義されていない。



「……こわい?」


 リリが言う。


 その言葉で、ノイズが一段強くなる。



【未知信号:再増幅】

【分類:不可】



 怖い。


 意味は完全には分からない。


 だが、内部で何かが引っかかる。



 リマナントの口部装甲が、わずかに動く。


 初めての出力試行。



「……」


 音が出ない。


 再試行。



「……こ」


 不完全。


 だが、音としては成立する。



 ガルドの目が鋭くなる。


 槍がさらに上がる。



「……え?」


 リリが小さく声を上げる。


 驚き。


 だが、後退はしない。



 もう一度。


 出力。



「……こ、わ……」


 音が崩れる。


 意味として成立していない。



【音声出力:不安定】

【言語構築:失敗】



 だが、それでも。


 “何かを返そうとした”という事実だけが残る。



 リリの表情が変わる。


 驚きから、少しだけ笑顔へ。



「しゃべれるんだ」


 小さな声。



 エルナが静かに息を吐く。


「……言葉を、理解しているのかしら」


 完全な理解ではない。


 だが、ゼロでもない。



 ガルドはまだ警戒を解かない。


 だが、先ほどよりわずかに構えが緩む。



 リリが、もう一歩だけ近づく。


「ねえ」



 そして。



「そういうときはね」



 ほんの少しだけ胸を張って、言う。



「ありがとうって言うの」



 リマナントの内部ログが、静かに更新される。



【新規語彙:ありがとう】

【意味:未定義】

【関連信号:高】



 理解できない。


 だが、記録される。



 少女の手は、まだそこにある。


 温度。


 圧。


 そして、言葉。



 すべてが、未知。



【優先行動:未定義】



 それでも。


 リマナントは、動かない。


 攻撃もしない。


 逃げもしない。



 ただ、そこにいる。



 それが、最初の選択だった。



 そして。



 物語は、ここから本格的に動き出す。

■ 後書き


  第3話「接触」をお読みいただきありがとうございます。


 本話では、主人公とリリたちが初めて“接触”する場面を描きました。


 まだ会話として成立しているわけではありませんが、


 →触れる

 →声をかける

 →わずかに返そうとする


 という、小さな変化が起きています。



 主人公はこの時点では、


 →言葉の意味を理解していない

 →感情も持っていない

 →行動の理由も“未定義”


 という状態です。



 それでも、


 →「反応する」

 →「返そうとする」


 という動きが生まれました。



 これは“理解”ではありませんが、


 →この作品における最初の一歩


 になります。



 また、リリの言葉はシンプルですが、

 主人公にとっては非常に大きな意味を持つものになっていきます。



 ここから少しずつ、


 →世界が「対象」から「関係」へ


 変わっていきます。



 次回は、もう少し踏み込んだ関わりが描かれる予定です。


 引き続き読んでいただけたら嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ