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REMNANT ― 廃棄予定の旧式兵器は、異世界で家族を得て心を覚える ―  作者: 和泉發仙


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12/35

第十二話 夜の話

前書き


第十二話は、戦いではなく“考える回”です。

昼間、村人たちの前でノアは外の目に晒されました。


けれど本当に重要なのは、そのあと。


誰も見ていない夜に、ガルドとエルナが何を思うのか。

恐れか。

同情か。

責任か。

それとも、まだ名前のない何かか。


ノアをめぐる物語はここから、少しずつ“家族の内側”へ入っていきます。






 夜は静かだった。


 昼間のざわめきが嘘だったかのように、村は暗がりの底へ沈んでいる。


 日が落ちると、この村は早い。


 畑から戻った者たちは戸を閉め、家畜小屋の鍵を確かめ、明日の水汲みや薪割りの段取りだけを頭の隅に残して眠る。


 昼間は人の声で満ちていた道も、今は風が通るだけだった。


 家々の隙間を抜ける夜風が、乾いた土の匂いと、遠くの草の匂いを運んでくる。


 虫の声が続いている。


 途切れず、揺れず、ただ夜というものを薄く敷き詰めるように鳴いていた。


 その静けさの中で、一軒の家にだけ小さな灯りが残っていた。


 リリの家だった。


 家の中には、食事の匂いがまだ少し残っている。


 煮込んだ根菜。

 焼いた硬いパン。

 薄く伸ばした肉の香り。

 それらが夜の空気に混ざり、生活の温度を作っていた。


 リリはもう眠っている。


 昼間、あれほど元気にノアのことを話していた子どもは、眠りに落ちると何も知らない顔になる。


 母親に毛布を直されても、少し身じろぎするだけで起きない。


 その寝息だけが、奥の部屋からかすかに聞こえていた。


 食卓には、エルナとガルドが向かい合って座っている。


 食事は終わっていた。


 だが、席は立たない。


 器は片づけられていない。


 それは怠けているからではなく、まだ終わっていない話があるからだった。


 小さな灯りが、二人の顔を揺らしている。


 エルナは椅子に腰掛け、手の中に器を包むように持っていた。


 中身はもうほとんどない。


 けれど、わずかな温もりが手のひらに残っている。


 その温もりを逃がしたくないように、彼女は器を手放さずにいた。


 向かいのガルドは、腕を組んで座っていた。


 食後の男にしては、少し背筋が硬い。


 疲れていないわけではない。


 昼間の仕事もあった。

 村人たちとのやりとりもあった。

 そして、何よりも納屋にいる“あれ”のことがある。


 だが、疲れている時ほど、ガルドは崩れない。


 崩れないことで、自分を保つ男だった。


 しばらく、二人は何も言わなかった。


 沈黙は重い。


 だが、冷たくはない。


 夫婦の間にある沈黙には、言葉にならないものを置いておける余地がある。


 急がなくても分かること。

 言わなくても伝わること。

 そして、言わなければならないこと。


 それらが灯りの下に並んでいた。


「……ずいぶん、来ていたわね」


 先に口を開いたのはエルナだった。


 声は穏やかだった。


 だが、ただの世間話ではない。


 今日、納屋の前に立っていた村人たちの顔が、二人の間に浮かぶ。


 警戒した目。

 距離を測る足。

 すぐに引けるように構えた肩。

 そして、ノアを見た時の、あの小さな拒絶。


「来るだろうな」


 ガルドは短く返した。


 予想していた、という声だった。


「放っておく話じゃないものね」


「ああ」


 それ以上、すぐには続かない。


 エルナは器を食卓に置いた。


 小さな音がした。


 その音が、会話の次の段階を開く。


「どうするのかしら」


 問いはまっすぐだった。


 遠回しにしない。


 責めてもいない。


 ただ、夫が何を考えているのかを確かめる声だった。


 ガルドは答えなかった。


 すぐに答えられる問いではない。


 答えを出してしまえば、それは方針になる。


 方針になれば、誰かを守る代わりに、誰かを危険に晒す可能性がある。


 灯りの火が揺れた。


 壁に映った二人の影も揺れる。


「……置く」


 やがて、ガルドが言った。


「しばらくは」


 短い言葉。


 だが、その中に条件がある。


 永遠ではない。

 完全な許可でもない。

 ただ、今すぐ追い出すことはしない。


 エルナは小さく頷いた。


「そう」


 その返事もまた、受け入れとも違う。


 ただ、聞いた、という返事だった。


「危ないと思っているのね」


 エルナが言う。


 ガルドは迷わなかった。


「分からんものはな」


 即答だった。


 分からない。


 それが危険の始まりだ。


 獣ならまだいい。


 牙がある。

 爪がある。

 腹が減れば襲う。

 怯えれば逃げる。


 人間なら、もっと厄介だが、それでも読める部分がある。


 怒る。

 欲しがる。

 恐れる。

 嘘をつく。

 笑う。


 だが、ノアは違う。


 何を欲しているのか分からない。

 何を恐れているのか分からない。

 なぜ動くのか分からない。


 分からないものは、危ない。


 ガルドにとってそれは偏見ではなかった。


 経験だった。


 森で生き残る者の判断だった。


「でも、何もしていないわよ」


 エルナが静かに言った。


 昼間、村人たちに向けた言葉と同じだった。


 けれど、今は少し違う。


 外に向けた説明ではなく、内側の確認だった。


 ガルドは腕を組んだまま動かない。


「“今は”だ」


 昼間と同じ答え。


 同じ言葉。


 だが、その声には村人たちへ向けた硬さとは違うものがあった。


 エルナにはそれが分かった。


 ガルドはノアを憎んでいるのではない。


 怖がっているのでもない。


 ただ、考え続けている。


 考えることをやめられないのだ。


 守るものがある者は、簡単に信じることができない。


 リリがいる。

 エルナがいる。

 家がある。

 村がある。


 それらを守るためなら、ガルドは冷たい判断もする。


 そのことを、エルナは誰よりも知っていた。


「……あなたらしいわね」


 責める声ではなかった。


 呆れでもない。


 長い時間を共にした相手にだけ向けられる、少し苦くて、少し優しい理解だった。


 ガルドは何も返さない。


 返さないことが、返事の代わりになる。


 エルナは視線を奥の部屋へ向けた。


 リリの寝息が聞こえる。


「リリが、あの子を気に入っているわ」


「見てれば分かる」


 ガルドは即答する。


 それもまた、分かっていることだった。


 リリはノアを怖がっていない。


 むしろ、近づこうとしている。


 名前を呼び、話しかけ、当然のように隣に立つ。


 子どもは時々、大人が越えられない線を簡単に越える。


 それが美しさであり、危うさでもある。


「だから困るのよね」


 エルナが苦笑した。


「止められないもの」


 リリを無理に止めれば、きっと反発する。


 理由も分からず遠ざけられれば、かえってノアのことを気にするだろう。


 それに、エルナ自身も分かっていた。


 あの子は、もう見てしまったのだ。


 納屋の中に立つ不思議な存在を。


 自分の声に反応し、自分の名前を覚え、自分が差し出したものを受け取る何かを。


 一度そこに“関係”が生まれてしまえば、大人の都合だけで消すことは難しい。


 ガルドは視線を落とした。


「……分かってる」


 短い声。


 だが、そこには諦めではない何かがあった。


 受け入れ。


 あるいは、覚悟の手前にあるもの。


 エルナは夫の顔を見つめる。


「あなたはどう思っているのかしら」


 ガルドの目がわずかに動いた。


「ただの“危険”なのかしら」


 核心だった。


 灯りが揺れる。


 家の外で、風が戸板を撫でた。


 ガルドはすぐには答えなかった。


 答えを探しているというより、答えを言葉にすることを避けているようにも見えた。


 けれど、エルナは待った。


 こういう時、急かしても意味がない。


 ガルドは軽く口に出す男ではない。


 だからこそ、出てきた言葉は重い。


「……分からん」


 正直な言葉だった。


「だが」


 ガルドはそこで一拍置いた。


「人の動きはしている」


 エルナの目がわずかに開く。


 その言い方は意外だった。


 ガルドは続ける。


「命令がないのに動く」


 昼間のノアを思い出す。


 リリに呼ばれた時、ノアは答えた。


 誰かに強制されたわけではない。


 リリが期待したから答えたのか。

 名前を入力として処理したから返したのか。

 それとも、もっと別の何かだったのか。


 分からない。


 けれど、ガルドはそこに違和感を覚えていた。


 危険な違和感ではない。


 むしろ、判断を遅らせる違和感。


「人の真似をしているだけかもしれん」


 ガルドは言った。


「だが、真似にしては……妙だ」


「妙?」


「あれは、リリを見ていた」


「見ていた、だけ?」


「いや」


 ガルドは少しだけ眉を寄せた。


「追っていた。声を。動きを。顔を」


 エルナは黙る。


 それは母親として、すでに気づいていたことでもあった。


 ノアはリリを見る。


 ただ観察しているのではない。


 リリの声に反応する。

 リリの表情を追う。

 リリが笑えば、その原因を探すように静止する。


 それは機械的とも言える。


 だが、機械的で済ませるには、あまりに丁寧だった。


「それは……」


 エルナは言葉を探した。


 そして、静かに言う。


「不思議なことね」


 ガルドは頷かなかった。


 ただ、低く続ける。


「だから、見てる」


 それが、今の結論だった。


 信じるのではない。


 捨てるのでもない。


 見る。


 近くで。

 目の届くところで。

 何かが起きる前に判断できる距離で。


 エルナはしばらく黙っていた。


 その横顔は、昼間よりも少し疲れて見えた。


 けれど、その疲れの奥にあるものは、恐れだけではない。


 彼女もまた、考えている。


 ノアをどう扱うべきか。


 物としてか。

 獣としてか。

 客としてか。

 それとも。


「……あの子、寒くはないのかしら」


 唐突に、エルナが言った。


 ガルドは一瞬、言葉を失った。


 危険。

 責任。

 村。

 リリ。


 そういう話をしていたはずなのに、エルナは急にそこへ行く。


 納屋の寒さ。


 夜の冷え。


 ノアが寒さを感じるかどうか。


 全く別の問い。


 だが、それがエルナだった。


 危険かどうかを考えながら、それでも寒くないかを気にする。


 受け入れているわけではない。


 ただ、そこにいるものが冷えていないかを思う。


「……知らん」


 ガルドは正直に答えた。


 分からないことは、分からない。


 エルナは立ち上がった。


「布、もう一枚持っていくわね」


 あまりにも自然な動作だった。


 食器を片づけるように。

 眠っているリリの毛布を直すように。

 明日の朝の水を用意するように。


 ガルドは止めなかった。


 ただ、目だけで追う。


 エルナは棚から古い布を取り出した。


 分厚くはないが、夜の冷えを避けるには十分だった。


 少し擦り切れている。


 だが、清潔に洗われている。


 家族が長く使ってきた布だ。


 それを腕に抱え、エルナは扉へ向かう。


 その背中に、ガルドが声をかけた。


「……あまり近づくな」


 小さな声だった。


 命令ではない。


 心配を隠すために硬くした声。


 エルナは振り返る。


「分かってるわよ」


 微笑む。


「あなたほど無茶はしないわ」


 軽い冗談だった。


 だが、そこには確かな信頼があった。


 ガルドは何も言わない。


 エルナは扉を開けた。


 夜の空気が家の中へ流れ込む。


 灯りが揺れた。


 外は暗い。


 けれど、納屋までの道は見える。


 何度も歩いた道だ。


 水を汲む時。

 干し草を運ぶ時。

 雨の日に慌てて戸を閉めに行く時。


 その道を、エルナは布を抱えて歩いた。


 夜の土は昼よりも冷たい。


 草が足元で小さく擦れる。


 納屋は静かだった。


 だが、完全な静止ではない。


 中に何かがいる。


 それだけで、納屋の沈黙には重みがあった。


 エルナは扉の前で一度立ち止まった。


 恐怖がないわけではない。


 むしろ、ある。


 昼間、村人たちの前では言葉を選び、母として、家の者として、ノアを庇うように立った。


 けれど、夜の納屋の前に一人で立てば、分からないものへの怖さは当然ある。


 エルナは息を吸った。


 そして、扉を少し開けた。


「ノア」


 小さく呼ぶ。


 中は暗い。


 だが、完全な闇ではない。


 月明かりが隙間から入っている。


 その薄い光の中に、ノアは立っていた。


 昼間と同じように。


 眠るでもなく、座るでもなく。


 ただ、そこにいる。


【音声入力:確認】

【対象識別:エルナ】


 ノアの頭部がゆっくりと動く。


 エルナを見る。


 その動きは滑らかで、静かだった。


 獣のような荒さも、人間のような迷いもない。


 だからこそ、エルナは一瞬だけ胸の奥が冷える。


 けれど、逃げなかった。


「寒くないかしら」


 自分で言ってから、少しだけ困ったように笑う。


「……聞いても、分からないわよね」


【語彙解析:寒い】

【状態照合:温度低下】

【応答候補:未定義】


 ノアは答えない。


 エルナは納屋の中へ一歩だけ入った。


 ガルドの言葉を守るように、それ以上は近づかない。


 布を干し草の上に置く。


「これ、使えるなら使って」


 ノアは布を見る。


 それからエルナを見る。


【対象:布】

【用途:保温/被覆】

【関連記録:リリ・毛布】


 ノアの内部で、記録が接続される。


 リリが夜に布をかけられていた。

 リリはその後、呼吸を安定させていた。

 エルナはそれを行っていた。


 布。

 夜。

 保護。


 処理は進む。


 だが、それが“優しさ”であるとは、まだ定義できない。


「無理に使わなくていいのよ」


 エルナは言った。


 そして、少し迷ってから続ける。


「ただ……置いておくわ」


 それだけだった。


 押しつけない。


 近づきすぎない。


 けれど、何もしないわけでもない。


 エルナは納屋を出ようとした。


 その時、背後でかすかな音がした。


 布が動く音。


 振り返ると、ノアが布を持ち上げていた。


 使い方を確かめるように広げる。


 そして、自分の肩へ置く。


 正確ではない。


 少しずれている。


 けれど、確かに“使おう”としていた。


 エルナは声を出さなかった。


 出せば、何かを壊してしまう気がした。


【動作:模倣】

【参照:リリ・就寝時】

【結果:被覆成功】


 ノアはエルナを見た。


 沈黙。


 エルナは小さく笑う。


「そう。それでいいわ」


 たったそれだけ言って、納屋を出た。


 扉を閉める。


 外の夜風が頬を撫でる。


 家へ戻る道で、エルナは一度だけ振り返った。


 納屋は静かだった。


 だが、さっきよりほんの少しだけ、寒そうには見えなかった。


 家に戻ると、ガルドはまだ同じ場所に座っていた。


 灯りも消さず、腕を組んだまま。


 ただし、目だけは扉へ向いている。


「近づいたか」


「少しだけ」


「……」


「布を置いただけよ」


「使ったか」


 エルナは少し驚いたように夫を見た。


 その問いが出るとは思っていなかった。


 そして、柔らかく答える。


「ええ。肩にかけていたわ」


 ガルドは何も言わない。


 けれど、その沈黙は先ほどとは違った。


 少しだけ、何かが落ちたような沈黙だった。


 警戒が消えたわけではない。


 危険が消えたわけでもない。


 ただ、情報が一つ増えた。


 ノアは布を使った。


 渡されたものを壊さず、投げず、拒まず、使った。


 それだけのこと。


 けれど、ガルドにとっては十分に記録する価値があることだった。


 エルナは席に戻らず、奥の部屋の方へ目をやる。


 リリはまだ眠っている。


「リリが見たら、喜ぶでしょうね」


「明日には見るだろ」


「そうね」


 少しだけ、二人の間の空気が緩む。


 だが、それも長くは続かない。


 問題が解決したわけではないからだ。


 村人たちは納得していない。


 ノアの正体も分からない。


 どこから来たのかも、何のために作られたのかも、まだ何も分からない。


 それでも、夜の中で一つだけ変わったことがあった。


 “あれ”ではなくなりつつある。


 完全に人ではない。


 家族でもない。


 だが、名前を持つ存在として、二人の会話の中に入り始めていた。


 エルナが奥の部屋へ向かったあと、ガルドは一人で灯りの前に残った。


 家の中は静かだった。


 リリの寝息。

 外の虫の声。

 遠くで鳴る木戸の音。


 それらに混じって、納屋の方からかすかな気配がした。


 動いている。


 布を確かめているのか。

 ただ立ち位置を変えただけなのか。

 それとも何かを考えているのか。


 分からない。


 ガルドは目を閉じる。


 昼間のノアを思い出す。


 リリに呼ばれ、名前を返した声。


 村人たちの前で動かなかった姿。


 そして、エルナが布を持っていったあと、それを肩にかけたという事実。


「……ノア、か」


 小さく呟く。


 名前だった。


 昼間は、リリが呼んだ名前を聞いただけだった。


 だが今、ガルド自身の口から出た。


 拒絶でもない。


 受容でもない。


 親しみでもない。


 ただ、覚えた音。


 だが、名前とはそういうものなのかもしれない。


 最初はただの音。


 何度も呼ばれるうちに、誰かになる。


 ガルドは立ち上がらなかった。


 納屋へ行くこともしなかった。


 ただ、耳を澄ませていた。


 外の気配。


 家の気配。


 納屋の気配。


 そのすべてを確かめながら、静かに灯りへ手を伸ばす。


 火が小さく揺れた。


 消える寸前、ガルドはもう一度だけ納屋の方を見る。


 闇の向こうに、見えない存在がいる。


 危険かもしれない。


 そうでないかもしれない。


 分からない。


 だから、見る。


 だから、近くに置く。


 だから、まだ答えを出さない。


 灯りが消えた。


 夜はさらに深くなる。


 納屋の中で、ノアは布を肩に置いたまま立っていた。


【状態:安定】

【外気温:低下】

【被覆効果:微小】


 布の温度は、わずかに高い。


 素材の情報が記録される。


 匂いもある。


 木。

 煙。

 食事。

 人。


 リリの匂いとは少し違う。


 エルナの匂い。


【対象:エルナ】

【行動:布の提供】

【分類:未定義】


 ノアは布を掴む。


 強くではない。


 壊さない程度に。


 その動作もまた、記録される。


 昼間。


 村人たちは距離を取った。


 エルナは距離を保ったまま、布を置いた。


 ガルドは間に立った。


 リリは名前を呼んだ。


 すべてが異なる。


 だが、すべてがノアへ向けられていた。


【外部反応:複数】

【敵対:未確定】

【保護:未確定】

【名称:ノア】


 ノアは動かない。


 だが、その内部では、夜の処理が続いている。


 名前。


 布。


 背中。


 声。


 寒い。


 だいじょうぶ。


 俺がやる。


 それらの言葉は、まだ意味として結ばれない。


 だが、消えない。


【記録:保持】


 そして夜は、静かに進んでいった。





後書き


この回は、かなり重要です。


ガルドはまだノアを信じていません。

エルナも完全に受け入れてはいません。


でも、二人とも“考えている”。


ここが大事です。


拒絶するだけなら簡単。

受け入れるだけでも、物語としては早すぎる。


だから今回は、二人がそれぞれのやり方でノアに近づきました。


ガルドは「見る」。

エルナは「布を置く」。

リリは「名前を呼ぶ」。


この三つが、ノアにとっての最初の家族の形になっていきます。

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