7.異形を斬る者――三国志に現れた異界の戦士
廠がスロウタイムの中で異形を次々と薙ぎ払っていく。
その動きは、三兄弟の目には「見えない速さ」だった。
張飛が最初に吠えた。
「うおおおおおッ!! お前だけにいいカッコさせるかよ!!」
関羽は刀を構え直し、静かに頷く。
「……あれほどの怪物を前にしても怯まぬ男がいる。ならば我らも進むのみ」
劉備は廠の背中を見つめ、胸の奥が熱くなるのを感じた。
(この男は……人を導く背中をしている)
劉備は刀を抜き、声を張り上げた。
「関羽! 張飛! 廠殿に続け!!」
「応ッ!!」
三兄弟が一斉に駆け出した。
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最初こそ異形の不気味さに怯え、距離を取っていた兵たちも、
押せると理解した途端、士気が一気に跳ね上がった。
張飛が先頭で異形の群れに突っ込み、豪快に薙ぎ払う。
「どけぇッ!! まとめて来い!!」
その一振りで三体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
関羽は逆に静かだった。
一歩、また一歩と踏み込み、異形の急所を正確に断ち切っていく。
「……乱れた心で斬れば、乱れた刃となる。落ち着け。恐れるな」
その声が、兵たちの震えを止めた。
劉備は兵たちの中心に立ち、声を張り上げる。
「恐れるな! 続け」
その声に応じて、兵たちが一斉に雄叫びを上げる。
「うおおおおおおッ!!」
恐怖で後退していた軍勢が、今度は異形の群れを押し返し始めた。
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異形の群れが崩れ始めると、その奥から、出てきた異形は、他の異形とは一線を画していた。
(お…中ボスか…強そうだな…)
四肢は太く、皮膚は岩のように硬質で、動きも他の雑兵より明らかに速い。
スロウタイムの中でも、わずかに“抵抗”を感じるほどだ。
廠は槍を構え、巨異形の懐へ踏み込む。
巨異形は腕を振り下ろすが、廠にはその軌道がはっきり見える。
(力はあるが、単調だ……いける)
廠は滑り込むように足を運び、槍の穂先を巨異形の脇腹へ突き立てた。
だが、手応えは重い。
肉を貫く感触よりも、岩を砕くような鈍い衝撃が腕に返ってくる。
「…硬いな」
巨異形が咆哮し、廠を弾き飛ばすように腕を振るう。
廠は後方へ跳び、体勢を立て直す。
(雑兵とは違うな)
巨異形が再び廠へ迫った瞬間、横合いから轟音が走った。
「どけぇぇぇぇッ!!」
張飛の蛇矛が巨異形の膝を粉砕し、巨体がぐらりと揺れる。
続けざまに、関羽の青龍偃月刀が
まるで水面を切るような静かな軌跡で巨異形の首元へ走った。
「―終いだ」
一閃。
巨異形の首が、音もなく落ちた。
廠が相手取っていた“中ボス”は、まるでただの木偶の坊のように崩れ落ちた。
廠は思わず目を見開いた。
(やっぱ…やばくね…関羽と張飛…強すぎ)
張飛は豪快に笑う。
「ははっ! 廠、お前が削ってくれたおかげでトドメが軽かったぜ!」
関羽は静かに刀を払う。
「いや、廠殿の見極めがあったからこそ。あの巨体を正面から受け止めた胆力、見事」
劉備も駆け寄り、息を弾ませながら言う。
「廠殿……あなたの戦いぶり、兵たちの士気を大いに上げました。
あなたが前に立つだけで、皆が勇気づけられる」
廠は少しだけ照れたように視線をそらす。
(…三国志の英雄って、やっぱり規格外だな)
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巨異形を討ち倒し、異形の群れを退けた劉備・関羽・張飛・廠は、張世平の屋敷へ戻る。
兵たちは外で治療を受け、屋敷の中には四人と張世平だけが集まる。
戦の熱気が引いた後の静けさの中、誰もが先ほどの異形の正体について考えずにはいられなかった。
張飛が真っ先に口を開く。
「にしてもよ……あんな化け物、どっから湧いてきやがった?」
関羽は腕を組み、静かに言う。
「妖魔とも違う。あれほどの数、そしてあの形状……人の世の理を外れている」
劉備は廠に視線を向ける。
「廠殿。あなたは“異形”と呼んでいた。あれは、あなたの知る存在なのですか?」
廠は少し考え、言葉を選ぶ。
「……俺のいた場所でも、ああいうのが出たことがある。
人でも獣でもない。理屈も通じない。
ただ“人を襲うためだけに存在してる”みたいな奴らだ」
三兄弟が息を呑む。
そこへ、張世平が口を開く。
「……実はな。ここ最近、各地で妙な噂を聞くのだ」
劉備が身を乗り出す。
「妙な噂とは?」
張世平は声を潜める。
「戦のあった場所にだけ、死体を喰らう“何か”が現れるらしい。
戦が終わった後、兵の死体が跡形もなく消えることがあると……」
張飛が顔をしかめる。
「死体を喰う……? あの異形のことか?」
張世平は頷く。
「どうやら、戦の匂いに引き寄せられるらしい。
戦が起きた土地にだけ現れ、死体を喰らい、またどこかへ消える……
そんな話を、何度も耳にした」
関羽が静かに言う。
「つまり、あれらは“戦”を糧にしている……?」
廠は腕を組み、低く呟く。
「……やっぱり、自然に生まれたもんじゃない。
“戦がある場所にだけ発生する”ってのは、あまりにも出来すぎてる」
劉備は深く頷く。
「戦乱の世に現れる、人を喰らう異形……放置すれば、民が犠牲になるばかりだ」




