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今度は三国志の真っ只中にいます  作者: 水原伊織


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5/22

5.張世平の馬が盗まれたので、婿の俺が出陣したら三国志の英雄がいた

朝餉の最中だった。


廊下の向こうから、さらに慌ただしい足音が駆け込んできた。

息を切らした若い使用人が、張世平の前で膝をつく。

「だ、旦那様っ……! 大変です!!」


張世平が眉をひそめる。

「どうした。朝から騒がしいぞ」

「馬が……馬が盗まれました!!厩の扉が壊され、十数頭が跡形もなく……!」


張世平の顔色が変わった。

「な、なんじゃと!? わしの馬が!?あれは全部、金貨に換えれば屋敷が三つ建つほどの……!」


若い使用人は、膝をついたまま震える声で続けた。

「そ、それに……賊は十や二十ではありません!三十……いえ、もっと……!黒い布で顔を隠した連中が、馬を引きずって……!わ、私は殺されると思って……逃げて……!」


張世平は椀をひっくり返し、立ち上がった。

「数十人の賊だと!?わしの馬を狙うために、そこまでの大人数が……!」


廠は静かに息を吐き、立ち上がる。


(数十人規模で動く盗賊団…これは、ただの“馬泥棒”じゃない。組織的な動きだ)


廠は張世平の前に進み出た。

「親父殿、俺が手勢を率いて、奪い返してきてやります」


張世平は、不安げに言う。

「廠殿、そうしてもらえると助かるが…相手は数十人じゃぞ?」


廠は軽く笑った。

「こちらも親父殿の手勢が同じくらいいます。なんとかなります」


----


裏庭に整列した私兵たちを前に、廠は短く命じた。

「全員、武器を確認しろ。これから賊を追う。相手は三十以上だ。気を抜くな」

「はっ!!」


私兵たちの声が揃い、屋敷の空気が一気に戦場のそれへと変わる。

張世平は廠の肩を掴み、必死の形相で言った。


「廠殿……頼んだぞ。馬はわしの命じゃ……!」

「任せてください。必ず取り返します」


織は廠の袖をそっと掴み、静かに言った。

「……廠。無事に帰ってきて」


廠はその手を軽く握り返す。


「すぐ戻る」


廠は私兵たちを率い、屋敷の門へ向かって歩き出した。


----


ちょうどその時だった。

屋敷の前の道を歩いていた三人の男が、廠たちの一団に目を留めた。


ひとりは質素な衣ながら凛とした雰囲気を纏う男。

その隣には、長い髭をたくわえた堂々たる武人。

さらにもう一人、背が高く、豪放磊落な気配を隠しもしない大男。


劉備・関羽・張飛である。


張飛が目を丸くした。

「おい兄者、あれ……張世平んとこの私兵じゃねぇか?なんだよ、朝っぱらから物々しいな」


関羽は静かに頷く。

「ただ事ではないな。あの先頭の男……見ぬ顔だが、只者ではない」


劉備は廠の歩き方を見て、すぐに察した。

「あれは“戦場を知る者”の歩き方だ。何かあったのだろう。声をかけてみよう」


----


廠が門を出ようとしたその瞬間、劉備が一歩前に出た。

「そこの方。張世平殿の屋敷から大勢を率いて出られるとは…何かあったのですか?」


廠は足を止め、振り返った。


(……誰だ?)


見知らぬ三人。

だが、ただの通りすがりには見えない。

特に、真ん中の男―その眼差しには、妙な重みがあった。


廠は簡潔に答えた。

「馬が盗まれた。三十以上の賊が厩を襲い、十数頭を奪っていった。これから追う」


劉備は廠に向き直り、深く頭を下げた。

「私は劉備玄徳。この町に滞在している者です。もしよければ、我らも力を貸しましょう。

賊が大勢なら、手勢は多いほうがよい」


(劉備!キタアアアアアアア!!、てことは、横のがあの関羽と張飛か!)


劉備は、質素な麻の衣をまとっていた。

だが、その佇まいは不思議なほど品がある。

背筋はまっすぐで、目元には柔らかさと厳しさが同居していた。

“ただの旅人”のはずなのに、言葉に重みがあり、その場の空気を自然と整えてしまうような、不思議な威厳があった。


(……これが劉備玄徳。見た目は飾り気がないのに、妙に“人を惹きつける”雰囲気だ)


その隣に立つ関羽は、まるで山のようだった。

長く豊かな髭が胸元まで流れ、切れ長の目は鋭く、静かに相手を見透かすような光を宿している。

緑の衣に身を包み、一歩も動かずとも、周囲の空気が張り詰めるほどの存在感。


(うわ……写真で見るより圧ある…!“武神”ってこういう人のこと言うんだろ)


そして張飛。

黒々とした髭、太い腕、丸太のような脚。


その全身から“豪快”という言葉が漏れ出している。

目はギラギラと輝き、笑えば雷鳴のように響き、怒れば獣のように吠えそうな迫力があった。


(でっっっか…!いや、でかいだけじゃなくて、なんか“野生の強さ”がある……!)


三人は並んで立っているだけで、まるで戦場の中心にいるような圧倒的な存在感を放っていた。


(三国無双って、わかりやすいんだな…良かった。俺、ゲーム好きで)

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