5.張世平の馬が盗まれたので、婿の俺が出陣したら三国志の英雄がいた
朝餉の最中だった。
廊下の向こうから、さらに慌ただしい足音が駆け込んできた。
息を切らした若い使用人が、張世平の前で膝をつく。
「だ、旦那様っ……! 大変です!!」
張世平が眉をひそめる。
「どうした。朝から騒がしいぞ」
「馬が……馬が盗まれました!!厩の扉が壊され、十数頭が跡形もなく……!」
張世平の顔色が変わった。
「な、なんじゃと!? わしの馬が!?あれは全部、金貨に換えれば屋敷が三つ建つほどの……!」
若い使用人は、膝をついたまま震える声で続けた。
「そ、それに……賊は十や二十ではありません!三十……いえ、もっと……!黒い布で顔を隠した連中が、馬を引きずって……!わ、私は殺されると思って……逃げて……!」
張世平は椀をひっくり返し、立ち上がった。
「数十人の賊だと!?わしの馬を狙うために、そこまでの大人数が……!」
廠は静かに息を吐き、立ち上がる。
(数十人規模で動く盗賊団…これは、ただの“馬泥棒”じゃない。組織的な動きだ)
廠は張世平の前に進み出た。
「親父殿、俺が手勢を率いて、奪い返してきてやります」
張世平は、不安げに言う。
「廠殿、そうしてもらえると助かるが…相手は数十人じゃぞ?」
廠は軽く笑った。
「こちらも親父殿の手勢が同じくらいいます。なんとかなります」
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裏庭に整列した私兵たちを前に、廠は短く命じた。
「全員、武器を確認しろ。これから賊を追う。相手は三十以上だ。気を抜くな」
「はっ!!」
私兵たちの声が揃い、屋敷の空気が一気に戦場のそれへと変わる。
張世平は廠の肩を掴み、必死の形相で言った。
「廠殿……頼んだぞ。馬はわしの命じゃ……!」
「任せてください。必ず取り返します」
織は廠の袖をそっと掴み、静かに言った。
「……廠。無事に帰ってきて」
廠はその手を軽く握り返す。
「すぐ戻る」
廠は私兵たちを率い、屋敷の門へ向かって歩き出した。
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ちょうどその時だった。
屋敷の前の道を歩いていた三人の男が、廠たちの一団に目を留めた。
ひとりは質素な衣ながら凛とした雰囲気を纏う男。
その隣には、長い髭をたくわえた堂々たる武人。
さらにもう一人、背が高く、豪放磊落な気配を隠しもしない大男。
劉備・関羽・張飛である。
張飛が目を丸くした。
「おい兄者、あれ……張世平んとこの私兵じゃねぇか?なんだよ、朝っぱらから物々しいな」
関羽は静かに頷く。
「ただ事ではないな。あの先頭の男……見ぬ顔だが、只者ではない」
劉備は廠の歩き方を見て、すぐに察した。
「あれは“戦場を知る者”の歩き方だ。何かあったのだろう。声をかけてみよう」
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廠が門を出ようとしたその瞬間、劉備が一歩前に出た。
「そこの方。張世平殿の屋敷から大勢を率いて出られるとは…何かあったのですか?」
廠は足を止め、振り返った。
(……誰だ?)
見知らぬ三人。
だが、ただの通りすがりには見えない。
特に、真ん中の男―その眼差しには、妙な重みがあった。
廠は簡潔に答えた。
「馬が盗まれた。三十以上の賊が厩を襲い、十数頭を奪っていった。これから追う」
劉備は廠に向き直り、深く頭を下げた。
「私は劉備玄徳。この町に滞在している者です。もしよければ、我らも力を貸しましょう。
賊が大勢なら、手勢は多いほうがよい」
(劉備!キタアアアアアアア!!、てことは、横のがあの関羽と張飛か!)
劉備は、質素な麻の衣をまとっていた。
だが、その佇まいは不思議なほど品がある。
背筋はまっすぐで、目元には柔らかさと厳しさが同居していた。
“ただの旅人”のはずなのに、言葉に重みがあり、その場の空気を自然と整えてしまうような、不思議な威厳があった。
(……これが劉備玄徳。見た目は飾り気がないのに、妙に“人を惹きつける”雰囲気だ)
その隣に立つ関羽は、まるで山のようだった。
長く豊かな髭が胸元まで流れ、切れ長の目は鋭く、静かに相手を見透かすような光を宿している。
緑の衣に身を包み、一歩も動かずとも、周囲の空気が張り詰めるほどの存在感。
(うわ……写真で見るより圧ある…!“武神”ってこういう人のこと言うんだろ)
そして張飛。
黒々とした髭、太い腕、丸太のような脚。
その全身から“豪快”という言葉が漏れ出している。
目はギラギラと輝き、笑えば雷鳴のように響き、怒れば獣のように吠えそうな迫力があった。
(でっっっか…!いや、でかいだけじゃなくて、なんか“野生の強さ”がある……!)
三人は並んで立っているだけで、まるで戦場の中心にいるような圧倒的な存在感を放っていた。
(三国無双って、わかりやすいんだな…良かった。俺、ゲーム好きで)




