3.魂が覚えていたから、私はあなたを探しに来た
織は、ある日、街で廠の姿を見た瞬間、胸が震えた。
(……廠……)
未来で再会した夕日の光。
三国の戦場で散った仲間たち。
そして、廠と過ごしたすべての時間。
その記憶が、鮮明に蘇る。
(また……会えた)
だが、簡単に会いに行ける立場ではなかった。
この世界では、張世平の娘として、常にお付の者がつきまとい、勝手に街へ出ることも許されない。
(どうすれば……廠に会えるだろう?)
悩んだ末、織は父の部屋を訪れた。
「お父さま。お願いがあります」
張世平は驚いた顔をした。
「なんじゃ、急に」
織は深く頭を下げた。
「婿取りの試合を開いてください。勝ち残った者を…私の夫に」
張世平は目を丸くした。
「お、お前がそんなことを言うとは……!」
織は静かに微笑んだ。
(廠なら……必ず勝ち上がる)
未来で、廠は自分を見つけてくれた。
だから今回も必ず。
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廠と織は、張世平の屋敷の奥にある小さな離れに通された。
婿取り試合の喧騒が遠ざかり、ようやく二人きりになれた。
織は廠の顔を見るなり、ふっと微笑んだ。
「……また、戻ってきちゃったね」
廠は苦笑しながら頭をかいた。
「三国時代か…、未来であんなにいい感じだったのにさ」
織はくすりと笑った。
「でも、これが、タイムリープって言うんでしょう?廠が最初に劉禅としてあの時代にもこうやって来たのね」
「そう。未来でミナになったのも、多分織のタイムリープだと思う」
織はそっと廠の手を握った。
その温もりは、未来で触れたときとまったく同じだった。
「廠。私…全部、覚えているよ」
未来でのミナとしての記憶。
三国での、あの戦場の日々。
そして、廠と共に過ごしたすべて。
廠は息を呑んだ。
「…やっぱりか。俺だけじゃなかったんだな」
織は小さく頷いた。
「はい。だから…街で廠を見かけたとき、胸が震えた。でも、お付の者がいて、勝手に会いに行くことはできなくて」
織は少し恥ずかしそうに視線を落とした。
「だから…お父さまにお願いしたのよ、“婿取りの試合を開いてください”って」
廠は思わず吹き出した。
「そんな理由で、あんな大騒ぎを…?」
「だって、廠なら必ず勝ち上がるって、分かってたから」
織はまっすぐに廠を見つめた。
「あの未来で、見つけてくれたから…今回も、きっと……」
廠は胸の奥が熱くなるのを感じた。
そのとき、二人の胸の奥で、同時に何かが軋んだ。
(……まただ)
(……この声……)
二人は顔を見合わせた。
【「異形を倒せ」
廠と織、二人の魂に同時に響く声。
織は静かに息を吸った。
「…廠。私にも聞こえました。“異形を倒せ”って」
廠は拳を握った。
「やっぱり…織もか」
織は頷いた。
「はい。だから……また一緒に戦えるんですね」
廠は織の手を握り返した。
「当たり前だろ。三つの時代越えて、やっと会えたんだ。今度こそ、全部終わらせる」
織は微笑んだ。
「ええ。廠と一緒なら、どこへでも」
夕日が差し込み、二人の影が重なった。
その影は、いつの時代でも、ずっと寄り添っていた。




